第30話祥子の誘い

父が満足げに眠ったので、孝太は病院から出た。

帰りの車の中で、いろいろと考える。

「何でもやりたいようにやらしてくれる親父だけれど・・・」

「それも怖い時がある」

「ケーキの時も反対はなく、逆に応援してくれて」

「何とか・・・成功らしきことになったから・・・いいけれど」

「焼いたパンも簡単に評価?拍子抜けする」

「それが逆に怖い」


パン屋に戻り、店の掃除などをしていると、今度は妹の真奈の病院の看護師から電話。

「医師から退院許可が出ましたので、明日は来られるでしょうか」

孝太は、断る理由がない。

「分かりました。午前中に伺います」


真奈の病院との話を済ませ、再び店の掃除をしながら、また考える。

「真奈と一緒に住むべきだろうか」

「退院しても体調が悪い時もあるかもしれない」

「田中祥子が隣と言っても、任せきりはできない」

「世田谷を引き払うか、それとも・・・少し様子を見てからに?」


孝太はため息をつく。

「これだと、パン焼きもケーキも、集中できない」

「ケーキのイベントも受けるしかなさそうだし」

「かと言って、パン焼きは自分で言い出したこと」


少しして、パン屋のガラス窓越しに、田中祥子が見えた。

「あれ?」

と孝太が田中祥子を見ると、手招きをしている。


孝太が店から出ると田中祥子は

「珈琲飲まない?」と誘って来た。


孝太は、あまりのフランクさに苦笑。

「ああ・・・ありがとう、煮詰まっていたから」

と、そのまま田中祥子の誘いを受けることにした。


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