第31話孝太と祥子

柿崎孝太が珈琲を飲み終え、席を立つと、祥子から声をかけられた。

「孝太君、二人きりで話をしたいの」

「ここでなくて」


柿崎孝太は、祥子の真顔に、ただならないものを感じた。

「ああ・・・それはいいけれど」

「パン屋でいい?」。


祥子は真顔で頷く。

孝太は祥子と一緒に珈琲豆店を出て、パン屋に入った。


祥子は思いつめた表情。

「孝太君の部屋で」


孝太は、その思いつめた表情に押された。

「うん・・・高校生以来かな」


孝太の部屋に入ると、祥子は笑顔。

「わ・・・懐かしい・・・」


そして孝太の腕を引き、一緒にベッドに座る。

「何度もここでお話したよね」

「子供の頃から」


孝太は苦笑い。

「そうだね、いろんな話を」

「祥子ちゃんが可愛くて、押されっぱなしで」


祥子はプッと吹く。

しかし、すぐに真顔。

小さな声、震える声で

「杉浦さんとは?」


孝太は答えに難儀する。

「パリでも、ホテルでもお世話になった」

「でも・・・深い関係にはなっていない」


祥子は。頷く。

「うん、そんな感じ」

「孝太君、追っかけられているって感じ」

「無理して合わせている・・・のかな」


孝太は頭を掻く。

「ただ、色々と面倒を見てくれるのでね」

「わかると思うけれど、ヴィヴィアンもそんな感じ」


祥子は、黙って孝太の腰に手を回した。

そして真顔。

「・・・私のことは?」


孝太の表情が変わった。

今まで見たことのないような真剣な顔で、祥子を見つめている。

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