第23話コッペパンは、一応焼けたけれど・・・

「親父の味とは違うと思うが」

「親父の作業を思い出しながら・・・」

「パリでも、アパート近くのパン屋の職人と仲良くなって遊びで焼いたこともあるけれど」

「しかし、パリのパンと日本の下町のパンとは違う」

そんなことを思いながらも、コッペパン試作は順調に進んだ。


全ての工程が終わり、約4時間半後、コッペパンは焼き上がった。

「うん・・・香りは何とか・・・まあまあか・・・」

「でも、そんなことは当たり前」

「食べてみないと、わからん」


コッペパンを少し食べてみた。

「酷い味ではないが」

「やはり親父の味とは違う」

「これは納得するまで時間がかかる」

「どこを、どうやって直せばいいのか」


腕組みをしていると、田中祥子が入って来た。

「どう?そろそろ焼けたかなと思って」


柿崎孝太は苦笑い

「まあ、素人の試作品で・・・」


田中祥子は、そのままコッペパンを手に取る。

「うん、いい感じ、さすが孝太君」

「食べていい?」


柿崎孝太は焦った。

「えっと・・・まだまだ・・・祥子ちゃんに食べてもらうほどでは・・・」


しかし、田中祥子は構わず、コッペパンをちぎって、口に入れる。

「うん・・・親父さんのとは違うけれど・・・」

「いい感じだよ、充分美味しい、これならお客さんは満足するかな」

「さすがね、孝太君」


柿崎孝太は、首を横に振る。

「・・・先は遠いかな・・・」

「何より、俺が納得していない」


田中祥子は含みのある笑顔

「残りのパンはどうするの?」


柿崎孝太は意味不明

「食べきれないからなあ・・・捨てるしかないかな」


今度は、田中祥子が首を横に振る。

「ダメ!食べ物を粗末にしない!」


驚く柿崎孝太に構わず、田中祥子は残りのコッペパンを袋に入れている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る