第20話孝太はアパートに帰り、考える

その日は結局、パン屋の掃除で終わった。

掃除の後、柿崎孝太は、「どうしても今夜は一人になって考えたい」と言い張り、世田谷のアパートに帰った。

田中祥子は不満顔、杉浦美和とヴィヴィアンも不承不承、それぞれ、帰った。


柿崎孝太が世田谷のアパートに持ち帰ったのは、パンのレシピが書いてあるノートとパン屋の会計の書類など。

万が一もあるので、全てPDFにしてPCに取り込む。

「これもパン屋を継ぐ、再開するためには必要となるけれど」

「・・・どうなろうと、見ておくべきか、勉強のために」


そんな気持ちで読み続け、様々なことをつぶやく。


「かなり良質な小麦粉」

「他もいい材料を使っている」

「だから原価率が高く、儲けは少ない」

「しかし、売り上げが多いから、何とか経営は出来た」

「もともと、パンは単価が安い」

「コッペパンもアンパンも100円」

「200円を超えるものは、立派に焼いたイギリスパンとバゲットか」


「しかし、それだから売り上げが大きくなる」

「つまり、薄利多売」


今までのパティシエ時代のことも含めて考える。

「ホテルの希望があるとは言え、かなりな高額だ」

「客層も購買者も違うと言えば、そうなるが」

「パンとケーキの差か」

「生活必需品のパンと、元々が贅沢を目的としたケーキの違い」

「俺にとっては、完全な路線転換になるな」

「ケーキを作りたくない・・・そんなわけではない」

「ただ、老舗のパン屋を俺の代でつぶしたくない、その気持ちが強い」

「・・・パン屋とケーキ屋の合体も、不自然」

「真奈と話もしないと・・・真奈も焼きたいかもしれない」


そこまで考えて、ベッドに横になった。

疲れもあったのか、すぐに眠ってしまった。

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