第17話ヴィヴィアンからの電話

田中祥子は柿崎孝太の言葉に耳をそばだてるものの、何しろ日本語でも英語でもないので、さっぱりわからない。

「どこの言葉?」


対して杉浦美和は、即座にフランス語と理解、懸命に内容を探る。

「大使館でケーキを焼くとか焼かないとか?」

「となると誰?」


そんな状態で、柿崎孝太の電話が終わった。

やれやれと言った顔。

「ヴィヴィアンだった」


杉浦美和の表情が変わった。

「え?ヴィヴィアン?」

田中祥子は、全く意味不明。

「その人誰?」


柿崎孝太は頭を掻きながら説明。

「うん、フランス大使館の人」

「大使の姪で、パリ時代から親しかった」

「一週間前に日本に来て、その時も電話をもらった」


杉浦美和が顔をしかめながら補足説明。

「年齢24歳、金髪グラマーの超美人」

「・・・それから孝太君のケーキの熱烈なファン」


田中祥子が「へえ・・・」と頷くと、孝太が面倒そうな顔。

「ここに来たいって」

そして、田中祥子に頭を下げた。

「悪いけど、この店では、話ができる状態ではない」

「祥子さんの店で話をしてもいいかな」


田中祥子は、拒む理由はない。

「うん、それは構わないけれど」

「広めのテーブルにするよ」

「杉浦さんも、ご一緒に」


杉浦美和も、拒めない。

「うん・・・それはいいけれど」

「でも、ヴィヴィアンは、いったい、何の用事?」


その質問に柿崎孝太は難しい顔。

「フランス大使館からのスカウト」

「常勤でケーキを焼いてくれと」

「大使の熱烈な要望もあるとか、日仏親善のためとか」


杉浦美和は頭を抱えた。

「ホテルでも引き留めたいし、孝太はパン屋で戸惑っているし、その上フランス大使館?」


田中祥子は、柿崎孝太に声をかけた。

「とにかく、お店に」

「お店でじっくりと」


柿崎孝太は頷き、ヴィヴィアンに連絡を取っている。


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