第15話孝太はパンを焼いてみると言う

杉浦美和は、柿崎孝太についてパン屋の店先に入ったものの、柿崎孝太が「ノート」に見入っているので、全く声をかけられない。

田中祥子も、本当に久しぶりに柿崎孝太の顔を見たというのに、同じ理由でどうにもならない。


それと、二人とも、やはり他人の家の中、孝太の許可もなく真奈の部屋に入ることはできない。


結局、内心ではけん制し合いながら、ヒソヒソと話をすることになる。


田中祥子

「今日はどういった事情で?」

杉浦美和

「あの・・・孝太君の妹さんのことで」

「どうしても、孝太君に持って来て欲しいもの・・・つまり彼が見ているノートかな」


田中祥子には、全く意味不明。

「え?真奈ちゃんに何かあったの?」

「何で真奈ちゃんが、そんなことを孝太君に?」

杉浦美和が「かくかくしかじか」を説明すると、田中祥子の顔が青ざめた。

「マジです?明日、私も病院に行きます」

今度は杉浦美和が「え?」となるけれど、田中祥子は涙を流す。

「可哀想・・・妹みたいな真奈ちゃん、顔見たい」

「私がお世話します、杉浦さんは無理しないでください、大切なホテルのお仕事もありますでしょうから」

しかし、杉浦美和は引かない。

「いえいえ、あなたもお店があるでしょ?」

「私は仕事の休みをもらっているので」

田中祥子が対抗して何かを言いかけると、柿崎孝太がノートを持って妹真奈の部屋から出て来た。


そして田中祥子に声をかけた。

「美味くできるかどうかわからない」

「今日から、ここに泊る」

「今から材料を仕入れて」


田中祥子は、その先の言葉がわかった。

「パンを焼いてみるの?」


柿崎孝太は頷いた。

「とりあえず焼くだけ焼いてみる」

「味見を頼めないか」


田中祥子は真顔で頷いた。

「もちろん」

「美味く焼けたら真奈ちゃんにも」


しかし、この展開に焦ったのが杉浦美和。

「やばいな・・・マジに」

ただ、そうは思っても、あからさまに反対も出来ず、戸惑うばかりになっている。

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