第13話妹真奈の目覚め ノートを取りに実家のパン屋に向かう

柿崎孝太と杉浦美和は、午前9時半に真奈の病室に入った。


看護師に入院に関する書類を渡していると、真奈が目を少し開けた。

口も少し動いた。

「兄ちゃん?」


柿崎孝太が手を握ると、真奈ははっきりと目を開けた。

「兄ちゃん、逢いたかったよ」

真奈はそのまま泣き声に。

「兄ちゃん・・・怖かった」

「死ぬかと思った」


柿崎孝太はやさしく真奈の髪をなでる。

杉浦美和も真奈に声をかけた。

「着替えとか必要なものはここに置きますよ」


真奈は驚いて杉浦美和を見る。

「え・・・まさか・・・お嬢様?」

「申し訳ありません」


杉浦美和は、やさしい笑顔。

「お嬢様って・・・真奈ちゃんは妹のようなもの」

「ある意味、孝太より好きなの」


看護師が頭を下げた。

「まだ・・・無理はできませんので」


柿崎孝太は杉浦美和と真奈に目で合図。

「また、明日来るよ」


杉浦美和は頷いたけれど、真奈が孝太の手を離さない。

「兄ちゃん、明日来るなら、私の机の一番上の引き出しからノートを持って来て」

柿崎孝太は、真奈の手を握り返した。

「うん、わかった、今から家に向かう」

真奈はにっこり笑い、ようやく兄の手を離した。



真奈の見舞いを終えた二人は、そのまま横浜の実家のパン屋に向かう。


柿崎孝太は、車を走らせながら首を傾げる。

「ノート・・・」

「まあ、見て見ないと何が何だかわからんが」

「見ればいいだけか」


杉浦美和は、何か感づいている様子。

「すごく大事なものと思うよ」

「何が何でも孝太の目に触れさせたいもの」


その後は、あまり会話もなく、柿崎孝太の実家のパン屋に到着した。


しかし、柿崎孝太は、すぐにパン屋には入れなかった。

柿崎孝太が店の玄関シャッターを開けようとすると、隣の珈琲豆専門店から若い女性が出て来た。

「もしかして、孝太君?」


「え?」

孝太は、その声に振り向き、何故か一歩引いている。

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