第7話眠りの世界の中で

眠りの世界の中で、柿崎孝太は実家のパン屋にいた。

親父はコッペパンを焼いている。

「いい匂いだ」

そう思って親父に近づくと、親父が笑う。

「食べたいか?孝太」

孝太も思わず笑った。

「うん、欲しい」

親父はコッペパンを孝太の手の上に。

孝太は、コッペパンにかぶりつく。

「美味い!後を引く・・・何もつけないのに」

親父は、また笑う。

「何もつけないで美味しいのが、本物のコッペパン」

コッペパンを食べ終え、パン屋の中を歩く。

店にはコッペパン、あんパン、クリームパン、カレーパン、サンドイッチが並ぶ。

少し眺めていると、母が店を開けた。

時計を見ると午前7時。

お客が、どんどん入って来た。

客層は、老若男女いろいろ。

ただ、学生が多い。

「だって美味しいもの」

「学校にもパン屋が売りに来るけれど、ここのパンとは比べ物にならない」

「良かった、近所にこのパン屋があって」

そんな学生たちや、他の客にも母は、笑顔を絶やさない。

「はい!今日もありがとうね」

「身体」大きくなったねえ、あんパン一個サービスするよ」

中には我慢できずに、店を出るなり、コッペパンにかぶりつく男子学生もいる。

それを見て、親父が笑う。

「朝飯だな、あれはきっと」

柿崎孝太はパン屋の外に出た、そして驚いた。

「50人?60人?みんなニコニコして・・・あ、また増えている」

「楽しい、幸せなパン屋だな」


次の瞬間、真奈がむしゃぶりついて来た。

「孝ちゃん、怖かった」

「私死んじゃうの?助けて!怖いよ」

柿崎孝太も思いっきり真奈を抱き締めた。

「大丈夫だ、兄ちゃんが守る!安心しろ!」

自分でも泣いていることがわかる。


「孝太・・・」

美和の声が聞こえて来た。

目尻にハンカチが降れたような感覚。

「ん?」

柿崎孝太は、目を開けた。

そしてまた驚いた。

「美和?どうして?ここに?」

美和も泣いていた。

「寂しいこと、もう言わないでよ」

「もっと頼りにしてよ」

孝太は、驚いたまま、なかなか返事が出来ない。

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