第4話妹真奈の病院にて(1)

柿崎孝太と杉浦美和が乗ったBMは、御茶ノ水の大病院に到着した。

正面入り口には、警察官が一人立っている。


柿崎孝太が入り口に近づいた時点で、その警察官頭を下げた。

「柿崎様、申し訳ありません、妹さんを事故に巻き込んでしまいました」


柿崎孝太は少し頭を下げただけ、低い声で警察官に聞く。

「それよりも、妹の容態は」

警察官も声を落とした。

「はい、幸いにも怪我はありません、ただ・・・ショックで意識が戻らなくて」


病院内に一歩入ったところで、柿崎孝太は美和に声をかけた。

「今日は帰ってくれ」

「まさか付き合わせることはできない」


警察官が杉浦美和に質問。

「あなたは、どのようなご関係で?」


杉浦美和は柿崎孝太の顔を少し見て答えた。

「赤阪クイーンホテルの支配人秘書の杉浦美和と申します」

「柿崎孝太君とは大学時代から懇意で、同期でホテル入社、パリの系列ホテルでも同じ時期に出張しておりました」


柿崎孝太は。手で杉浦美和を制した。

「そこまででいい、真奈の病室に」

「美和お嬢様はお帰りを」

そして警察官に目で合図、警察官も頷いたので、そのまま二人で歩き出す。


置き去りにされた杉浦美和は、少し迷ったけれど、結局追いかけた。

「私も話を聞きたい、迷惑かもしれないけれど、何か役に立てることもあるかも」

「女の子の入院でしょ?孝太君だと行き届かないこともあるかも」


返事に詰まる柿崎孝太に警察官が声をかけた。

「杉浦様のお申し出も助かると思いますが・・・」


しかし、柿崎孝太は頷くだけが精一杯、それよりも妹の真奈が心配で仕方がない。

そんなことで、結局、杉浦美和も、真奈の病室まで行くことになった。


「妹様はあそこの病室におられます、個室になっております」

「私はここまでになります」

病院の入り口から一緒に歩いて来た警察官は、柿崎孝太と杉浦美和に頭を少し下げた。

そして、真奈の病室の前に前に立っている別の警察官に近寄り、小声で何か話をした後、再び柿崎孝太と杉浦美和に頭を少し下げ、姿を消した。


今度は真奈の病室の前に立っていた警察官が、柿崎孝太に頭を下げた。

「誠に申し訳ありません。神田署の佐藤と申します」

「妹様の事故の事情は、お見舞いの後に説明いたします」


柿崎孝太が頷くと、病室のドアが静かに開き、中年の女性看護師が顔を見せた。

「柿崎様、こちらへ」


その言葉に応じて、柿崎孝太、そして杉浦美和が病室に入ると、真奈がベッドに横たわり、目を閉じている。


ベッドの脇に立っていた医師から声がかかった。

「お兄様の孝太様ですか?」

「医師の大西と申します」


柿崎孝太が頷くと大西医師は柿崎孝太を手招き、小さ声で状態を説明する。

「検査の結果として、現時点で、身体的には何の損傷もありません」

「ただ、ショックが大きかったのでしょう、意識がまだ回復していません」

「意識が戻るのに・・・数日かかることも・・・予想がつきません」


柿崎孝太は、目を閉じたままの妹真奈をじっと見る。

そして潤んだ声をかけた。

「真奈・・・兄ちゃんだよ・・・大変だったね」


「手を握ってあげてください・・・大丈夫ですから」

看護師から声がかかった。


柿崎孝太は、涙で顔をクシャクシャにさせながら、そっと妹真奈の手を握った。


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