第3話 巻き込まれる

シーズンオフの海水浴場の駐車場に

車は数台ばかり。

自動販売機の明かりだけが、まばゆい。


自販機の前に車を止めて、缶コーヒーを買う。

風が強い時は煙草の味が薄く感じる。

月をなでるように

薄い雲が形を変えながら流れている。


「普段、空なんか見上げないもんな」

一人暮らしをしてると、独り言が癖になる。




ジャリ、ジャリとアスファルトを踏む足音が聞こえた。


振り返ると、車の向こうに女がいた。

「うわあぁぁーーー!!!」


とっさに叫んでしまった。

本当に幽霊だと思った。

髪はボサボサで、顔にはアザがあり

服の肩口は破れている。


「助けて………」

大きく目を見開いて、固まってしまった僕を尻目に

女は勝手に、ふらふら助手席に乗ってしまった。


「あ、ちょ、ちょっと!」

女は顔を伏せ震えていた。


「あの、勝手に乗られては困るんですけど」

「追われてるの。助けて…」


サスペンスドラマでしか聞かないようなセリフだ。



二台のヘッドライトが駐車場に入ってきた。


「アイツらよ!早く車を出して!早く!」

剣幕から、その危機感が伝わり気圧される。



なるべく平静を装うつもりで

あえて、ややゆっくり

連中が来た反対側の出口から駐車場を出た。

鼓動がドキドキ鳴っている。


あの二台から遠ざかる事だけ考えていて

大きなミスをした。

N市に戻る方の逆に車を走らせてしまった。



やはり疑われてしまった。

バックミラー遠くにヘッドライトがちらつく。

シフトダウンし加速する。

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