第2話 真夜中のドライブ

ただ付けて流してるだけのテレビも

見る気にならない。

読み飽きた車雑誌をパラパラめくる。

暇を持て余していた。



キーを掴んでアパートを出る。

午後11時。


アパートから少し離れた駐車場の隅で

街灯を鈍色に反射する、黒く低い車体。

まるで眠っているようだ、といつも思う。


運転席に乗り込む。

体をホールドするバケットシートにも慣れた。

キーを回しエンジンをかける。

目覚めるというより、息を吹き返す

という表現の方がしっくりくる。


夜ドライブ用のプレイリストを選ぶ。



この時間になると市街地の車通りも少ない。

郊外へ向かう。

窓を開けると、潮風の湿度が肌に触れる。

N市は海沿いの街で

道路沿いの防砂林の向こうは海だ。



一台の車が追い抜いて行った。

S14シルビア。

シーサイドラインかY山の峠へ向かってるのだろう。




車好きなら、一度はマンガ『頭文字D』の様に

峠を攻めてみたいと思うはずだ。


ジムカーナを初めて、自分の運転の下手さ加減を

今は痛感している。

エスケープゾーンの無い峠で

無謀に飛ばしてミスすれば、即クラッシュ廃車である。

無謀さと度胸で、飛ばすなど怖くて僕には無理だ。




この先に海水浴場の駐車場がある。

今日はそこで折り返すとしよう。


対向車も後続の車もいない深夜。

好きな音楽と気紛れな時間に、もう少し浸っていたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る