第5話  一速の咆哮

暗闇のトンネルのような峠に、ハイビームで飛び込む。


対向車とすれ違うのも難しい位の

峠と呼ぶには狭い林道。



短いストレートからの最初のコーナー。

ギリギリまで突っ込んでブレーキング。


1速にシフトダウンし右へステアを切る。

体を押し付けられるようなGがかかる。

クリッピングからアクセルを開け、

荷重を振り返し左タイトコーナーへ。


サイドブレーキを少し当てる。

テールが流れコーナー出口へ向く。

タコメーターが勢いよく8000回転まで振り切る。

リミッターに当てて、2速にシフトアップ。

弾かれる様に加速する。



助手席の女がどうしてるか

確認する余裕はない。

今はこのコースを速く駆ける事に集中するしかない。

まるで立体駐車場を爆走するようなものだ。



カーブミラー。3連続コーナーが来る。


ブレーキングから右へステアを切る。

クリッピングを越え

1速にシフトダウン。左ステアからサイドを引く。

テールスライドをLSDが振り回す。


振り返えし、荷重移動させ右コーナーへ。

サスがフルバンプして軋む。

立ち上がりで2速にシフトアップ。


VTECが吠える。視野が狭くなるような加速。

追ってくる二台と、どこまで差を広げられたか

バックミラーを確認する余裕はない。

ただ、いける  不思議な確信



緩いコーナーとストレートの区間。

落ち葉をかき散らし疾走する。



奥へ行くほど深くなるコーナー。

やや道幅が広くなる。


ガードレールぎりぎりアウトから進入して

サイドを引く。

けたたましいスキール音が響く。

スライドしながらクリッピングをかすめる。

路肩の草と砂利をフロントタイヤが弾く。



身をよじり暴れる猛獣のように

ギャップで跳ね、車体がバウンドする。

構わずアクセル全開で駆ける。

7600回転が吠え、重い闇を切り裂く。


この速度域とコースレイアウト。

俺とインテグラなら

大排気量セダンなどに負ける気がしない。



怒りの様な衝動が暴発する。


VTECエンジンの甲高いエキゾースト音が

吠え叫ぶ。

突き上がる俺の叫びも遠く聞こえた。



最終コーナーを抜ける。

この峠の出口はもうすぐ。


暗闇の先のかすかな光に向って

全開で突っ込んで行く___

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