19.妖怪たちとの戦い


 夜も明ければ、見通しも良くなるだろう。そうすれば、廃村の不気味さもマシにはなるはずだ。

 横になりながらそう考えた飛田とびたは、翌日に改めて、駅まで財布を取りに行くことにした。


(誰かに盗られてしまってるかもしれませんが……その時は仕方ないですね)


 OFFBEATで外園からもらったギャラは封筒に入れたままバッグに入っているので、それがあるだけでも良しとした。



「へっくしゅん!」


 妙な寒さで、飛田は目を覚ました。

 気のせいではない。毛布が無いのだ。


「……毛布はどこに……」


 手を伸ばしても、毛布は近くに無さそうだ。

 寝ぼけ眼のまま、目を開けてみると——。


(……そんな……!?)


 天井に、毛布が浮かんでいるではないか。

 その毛布に、大きなが現れた。四角い不気味な歯が見える。


「げはははは……」


 口を大きく開き、下卑た笑い声を上げる毛布——。


「う……裏飛田さんー!!」


 いっぺんに鼓動が早くなり、飛田は息も絶え絶えになりながら、裏飛田を起こしに行った。



 裏飛田は、テーブルの部屋で本を読んでいた。ずっと起きていたようだ。


「あれは、妖怪【ふとんはがし】だ。布団や毛布に取り憑いて、文字通り布団を剥がして悪戯する。たまーに出てくる迷惑な野郎だ。放っておけばすぐに何処かへ行くから、気にするな」

「気にするなと言われましても……。気になりますよ……」

「気にすると奴らは、つけ上がる」


 裏飛田はずっと視線を本に向けたまま、飛田にアドバイスする。ランプの明かりで、裏飛田の影が大きく壁に映った。


「……分かりました。あの毛布自体がオバケというわけではないんですよね?」

「そうだ。“ふとんはがし”は、普段は目に見えない。布団や毛布に取り憑いていたずらをするだけだ。対策は、毛布を体に巻いて剥がされないようにする、とかだな」


 恐る恐る、寝ていた部屋に戻ると、毛布は乱雑に床の上へ広げられていた。

 そっと触れてみても、動く気配はない。“ふとんはがし”は、どこかへ行ってしまったのだろう。

 裏飛田に言われたとおり、飛田は毛布を体にくるんでみた。どうにも気持ち悪さが残るが、違和感が無いことを確認すると、そっと目を閉じた。



(……ん?)


 またも目が覚めた。まだ周りは真っ暗だ。

 寝ぼけまなこのまま、天井をボーッと見ていると——。

 天井にある2つの節穴に、違和感を覚えた。

 目を細めながらよく見てみると——。


 節穴の中には、どろんとした目玉が1つずつ覗き込んでおり、飛田の方をじーっと見ていた!


「あ……うわ……!?」


 心臓が跳ね上がり、声にならぬ声を上げた。

 全身の筋肉が硬直するような恐怖感に襲われ、思わず目を瞑る。

 

 恐る恐る、もう1度目を開けてみると——。

 暗闇に慣れた飛田の目に映ったのは、天井にある何の変哲もない2つの節穴だった。

 疲れのせいのか、はたまた寝ぼけただけのか。飛田にとって、オバケはトラウマになりつつあった。


(うう……今度こそ寝ます! 外から何か聞こえますが、無視です、無視!)


 今度は外から、シャクシャクシャクと何かをかき混ぜるような音が耳に入ってくる。

 飛田は、気にせず寝ようと目を瞑った。


 だがその音はだんだんと大きくなり、耳元に近づいてくる——。

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