14.VS謎の忍者たち


 まるで、夜の闇に溶け込んでしまいそうな廃村だ。

 ボロボロの家屋。腐り落ちた柱。

 外から家屋の中が見えるが、畳の床はいくつも大きな穴が空いて床下が見えている。

 当然、人は住んでいないだろうと思った飛田とびたは、廃村を発つことにした。


 また迷わないことを祈りながら、駅へと向かうべく村を出ようとする。

 その時——。


「うわん!!!!」


 腐った柱の陰から、何者かが「うわん」という言葉と共に飛び出してきた。


「ぎゃあっ!?」


 飛田はびっくりして尻餅をついた。心拍数が一気に上がり、息が苦しくなる。

 恐る恐る見上げるとそこには、ずんぐりとした背が低い男が、ギョロリとした目の剥き出してニタニタと笑っていた。白い和服姿だが、体の横幅が50センチメートルほどもあり、明らかに人間ではない。オバケか妖怪だ。


「う……うわん?」


 そのオバケが発した言葉に疑問を抱いた飛田は、思わず口にする。

 すると!


「ぎゃあああああああ!!!!」

「ひっ!?」


 オバケは、何か恐ろしい目に遭ったかのような表情を見せながら頭を抱え、悲鳴を上げた。


「ひいっ……!?」


 飛田は再び、びっくりして腰を抜かしてしまった。

 だがオバケは泣き声を上げながら、廃村の外へと逃げて行ってしまったのである。


「……な、何だったんですか、今のは……」


 案外すぐに落ち着きを取り戻すことができた飛田は、オバケにも色々いるんだなと感心した。少し、この環境に慣れてきたのかもしれない。


(気を取り直して、駅に向かいますか)


 飛田は今度こそと、廃村から一歩踏み出そうとした。

 ——が!


「ま……待たれよ!」


 今度は何処からともなく、女性の声が耳に入った。


「誰ですか……? やっぱり人がいたんですか? ……って、うわわっ!?」


 飛田の足元の地面に、黒いトゲのような小さな何かが、いくつも突き刺さる。

 “撒菱”だ。

 飛田の周囲一面に撒菱が撒かれ、身動きが取れなくなってしまった。


 すぐに、女性と男性の声が聞こえてくる。


「あ……あなたは魔王ゴディーヴァ様を倒すつもりなのね……?」

「ならば、拙者らを倒して行くが良い」


 ドロン、と煙の中から現れたのは——忍び装束を身につけた、2人の人影。


「か……影丸かげまる、参上!」

「ジライヤ、参上!」


 背が低い女性の忍者、影丸。

 背が高い男性の忍者、ジライヤ。

 彼らの声に、飛田は聞き覚えがあった。


「あ……あなたたちは!」


 飛田の部屋でいきなり襲ってきた、2人組の忍者だ。

 雪白を襲ったのも、2人組の忍者だと聞いた。もし彼らが同一人物だとしたら、この忍者たちは現実世界、夢の世界、そしてこのオバケ(?)の世界を渡り歩いていることになる。


(でも、最初に襲われた時は、彼らは私を倒して魔王ゴディーヴァに差し出す、みたいなことを言ってましたね……。でしたら、やはり彼らも魔王軍でしょうか)


 飛田は“フォルテ”を放つべく、体に力を込めた。


「勇者ミオン殿。覚悟!」

「か……覚悟!」


 飛来する手裏剣をどうにかかわしながら、攻撃のタイミングを見計らう。


 と、その時。


「ゴルァ!! そこで何さらしとんじゃいワレェ!」


 ドスの効いた大声が、響いた。

 忍者2人の声ではない。また別の誰かである。

 飛田は、思わず振り返った。

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