13.オバケ、撃退!
林を抜けた場所にある草地に鎮座していたのは、巨大なアワビのようなオブジェだ。
その向こうは崖になっており、夜空の下に水平線が見える。他に道はないため、またオバケの林を引き返さなければならない。
それよりも
(……何となく心地いい匂いがしますね……。こ、これは!!)
巨大な唇状の貝殻を覗き込むと、中に水が湧き出ていた。その水は、よく見ると乳白色であり、ほんのり心地良い匂いを放っている。
(“生命の水”です……!)
オトヨーク島の最南端、ダイゴの森を抜けた場所に建っている“生命の巨塔”の
飛田は“生命の水”を両手ですくい、ゴクリと飲み干した。じわりと身体が温かくなり、恐怖感が少しずつ落ち着いてくる。
(飲み物も無かったし、助かりました。しかし何でこんな所に“生命の水”が湧き出ているのでしょう……? ここも、夢の世界グランアースの、オトヨーク
飛田は、空になったままずっとカバンに入れていたペットボトルに“生命の水”を満タンになるまで汲んでから、オバケの林の方に体を向けた。
「行くしか、ないですよね」
巨大アワビの向こうは崖、そして海だ。やはり再び、オバケの林を通るしかない。
飛田はなるべく周りを見ないように目を細め、オバケの林へと駆け出した。
案の定、いくつもの分かれ道がある。足元だけを見ながら、小走りでひたすらに進んでいると——。
「痛ッ!?」
何かに、ドンとぶつかった。
「壁……?」
行き止まりだろうか。恐る恐る、顔を上げ目を開けてみる。
「オロォォォォン……」
見ると、四角形のコンクリートの壁にドロリとした目が2つ、
「【ぬりかべ】……!? うわあああ!!」
声を上げながら飛田は、夢中で反対方向へと走り出す。
やっぱりこの林には、オバケがいる。1秒でも早く抜け出したい——。
「出口をぉお探しですかぃ?」
「……え?」
掠れた男性の高い声が耳に入る。またオバケだろうか。
構うまいと、飛田は声を無視して進もうとするが、肩をトンと叩かれる。すると金縛りのように体が動かなくなり、飛田はその場に崩れるように倒れた。
「美味しいものくれたらぁ案内してやらんでもなぃぃ」
「ソノオイシイモノトハ……オマエノ体ダァ!」
袈裟を身につけた、坊主頭の男性——だが彼の顔には、目が1つしかない。血走った1つの目玉が、ギョロリと飛田を見つめる。【1つ目小僧】だ。
そして隣にいるのは、巨大な【からかさ】。これまたまん丸い1つの目が傘の真ん中にあり、飛田を睨んでいる。
傘がバッと開くと、どういう仕組みなのか目玉の下の部分に大きな口が現れ、そこから真っ赤な舌がベロリとはみ出した。
「ああ……ああ……」
身体は動かないが、頭は働かせられる。恐怖感と寒気に侵食されながら、飛田は夢中で打開策を考える。
(一か八かです……)
全身に力を込めてみる。すると、飛田の体全体が白い輝きを放ち始めた——。
「“フォルテ”!!」
オバケの林に似つかわしくない、煌びやかな閃光が放たれた。
瞬く間に、1つ目小僧とからかさは白い光に包まれる。そして浄化されるように姿を消していく——。
「そんなばかなぁぁぁ」
「ゲェェエエーー!?」
2体のオバケは、完全に姿を消した。
勇者の魔法は、使うことができるようだ。
微かに残った白い光が、林道の先へと飛んで行く。飛田は直感した。
(この光について行けば、林から出られるかもしれません!)
飛田は、導くように伸びる白い光を追い、林道を一気に駆け抜けた。
「はあ、はあ……抜けました! ああ……」
気がつけば、飛田は草地に立っていた。振り返れば、遥か向こうに先ほどの林が見える。戻っておいでよとでも言うように、柳のような木々が揺れている。
視線を戻すと、目の前には茅葺きの建物が何軒か建っていた。だが、どの建物にも明かりはついていない。田畑のような場所もあるが、雑草が生い茂ってしまっている。廃村だろうか。
駅に落とした財布を取りに戻りたかったが、下手をするとまたあのオバケの林に迷い込みかねない。ひとまず休むことにした飛田は、廃村の建物に歩み寄り、縁側に腰を下ろした。
ペットボトルに汲んだ、“生命の水”で喉を潤す。
(誰もいないんでしょうか……)
10分ほど休んだのち、飛田は廃村を少し探索することにした。
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