15.もう1人の、飛田優志


「ゴルァ!! そこで何さらしとんじゃいワレェ!」


 飛田の背後から、ドスの効いた大声が響いた。


「い……いやああ! 怖いい!! どろん!!」

「……ま、待つのだ六花りっか……いや、影丸! ……どろん!」


 影丸(六花?)は分かりやすくビビり散らかし、悲鳴を上げ、煙玉を投げてドロンと消え失せてしまった。

 ジライヤという名の男の忍者も後を追い、煙に巻かれて消えた。


 ——と思ったら、今度は煙の中から何やら桃色のモコモコとした毛皮に包まれた、身長40センチメートルほどの生き物が忽然と現れた。

 モコモコは、じっと飛田の方を見たのち、可愛らしい声を発した。


六花りっかをいじめないでメェー。六花たちは、勇者ミオンの味方だメェー」


 声色は、ミューズやピノと似ている。

 桃色のモコモコはそれだけ言って、先ほどの忍者たちと同じくドロンと煙に包まれ消えてしまった。


「えっ……と……? 一体何が何だか……?」

「おいゴルァ。お前どこのどいつじゃ」


 怒鳴り声を上げた何者かが、すぐ背後に迫っていた。

 振り向くと、そこにいたのは——。


「何じゃワレ。名ァ名乗らんかいゴルァ。いてこますぞ」

「蜂の巣になりたくなきゃ、さっさと名乗ることね」


 サングラスを着けた、金髪マッシュルームカットの少年。

 そして、身長165センチメートルほどの、ブロンド髪の女性だ。

 怒鳴ったのは少年の方だ。身長は小学生ほどだが、その声には威圧感がある。


 さらにもう1人、後からゆっくりと歩み寄って来た人物がいる——。


「……、コイツ敵かもしれへんっすわ」

「すぐに始末して参ります」


 少年と女性が順番に、後から来た人物に向け伝えた。

 黒ずくめのその人物は飛田の近くに歩み寄ると、立ち止まって首を横に振る。


(ミオン様? ……もしかしなくても……もう1人の私ですか……?)


 何とその人物は——男だったのだ。


 しかし飛田そっくりの男は、髪を固めてオールバックにし、火のついた葉巻を咥えながら目を細め、本物の飛田を睨んでいる。細身でありながら、ピシッとした黒いスーツとネクタイを着こなし、腰には拳銃らしき物を携えていた。

 飛田そっくりの男が顎でクイと何かを指示すると、金髪サングラスの少年が口を開く。


「……名ァ名乗れやボケゴルァ」


 金髪サングラスの少年は小型の果物ナイフの刃を、飛田の方に向けた。口と耳にいくつもつけられたピアスが揺れる。

 ブロンド髪の女性は機関銃のような物を構え、銃口を飛田に向けていた。

 2人とも、防弾チョッキらしき物を身に着けている。


「と……飛田とびた優志まさしです……」


 飛田は腰を抜かし、地面にへたり込みながら自身の名前を伝えた。

 金髪の少年は頷くとナイフをしまい、ブロンド髪の女性は銃を下ろす。すると、ずっと黙っていた飛田そっくりの男が、初めて声を発した。


「……か。だとしたら、向こうの世界の俺が、お前という訳か」


 重々しい声で語ったもう1人の飛田は、葉巻の煙を夜の闇に吐き出した。


(やはり、もう1人の私……?)


 本物の飛田が考えている間に、もう1人の飛田は名乗る。


「俺の名もお前と同じ、だ。だがここではと呼ばれている」


 飛田優志が、2人。

 これは一体、どういうことだろうか——。

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