10.謎の無人駅


 客が誰もいない電車は、飛田とびたが目を覚ましてからも30分近く、走り続けている。


 すっかり暗くなった外の景色を見ると、見覚えのない山の中を電車は走っていた。

 おかしい。この路線は、山の中など通ってはいないはず。

 飛田は、地図アプリを開いた。

 だが、開いた途端にアプリがクラッシュする。


『縺雁燕繧呈ュサ縺ョ荳也阜縺ク隱倥≧』


 何度か、デスヴォイスのような車内アナウンスが流れる。

 トンネルを何度も通り、電車は見知らぬ地を疾走する——。


 目を覚ましてからは、すでに1時間近くが経っていた。その間、電車は1度も停車していない。


「……どうなってるんですか……」


 飛田は、稲村に連絡を取ろうとした。だがLINEもクラッシュしてしまう。

 連絡先に登録してある、稲村の電話番号をタップし、電話をかけてみる。

 しかし何度かけても、話し中の『プーップーップーッ』という音になる。


(SNSに今の状況をアップしましょう。誰かしら反応してもらえるはずです……)


 飛田はスマホのカメラで、車内の様子を撮影した。

 ——が。

 写ったのは何と、真っ赤な色だけだった。画面中が、血のようにやや赤黒い色で占拠されている。何度撮影しても同じだ。


 背筋が寒くなった。

 電車の中は暖房がよく効いているのに、ゾクゾクッと寒気が飛田の全身を走る。

 またトンネルだ——。


 SNSアプリを開こうとしたが、やはりクラッシュしてしまう。電波は圏外となっていたため、どちらにせよSNSも使えない。


 トンネルを抜けしばらく経つと、ようやく電車の速度が緩んでいった。外はやはり、灯りもなく真っ暗な山中だ。

 やがて、駅らしき場所に差し掛かる。

 段々とブレーキがかかり——。


 止まった。


『譌ゥ縺城剄繧翫↑縺代l縺ー縲∽サ翫☆縺舌♀蜑阪r謚ケ谿コ』


 相変わらずのデスヴォイスのようなアナウンスと共に、扉が開く。

 刺すように冷ややかな風が、車内に流れ込んでくる。

 窓から外を見てみた。


 廃墟のような無人駅だ。

 柵は錆びついており、木製のベンチは腐り落ちている。ホームの床が、所々崩れている。


(……なかなか発車しませんね)


 15分ほどが経過。

 電波は相変わらず圏外。

 誰とも連絡を取れないし、外からの風も寒いし、じっとしていると気が狂いそうだ。

 飛田は立ち上がり、開きっぱなしの乗降口から駅の様子をそっと覗き込んだ。

 その時だった。


(うわっ!?)


 何者かに、ドン、と背中を押された。

 飛田は乗降口から飛び出し、無人駅のホームに倒れ込んでしまう。

 思わず振り向いたが——。


 誰も、居なかった。


 扉が閉まる——。


「あ! 待ってください——」


 乗降口の扉は閉まり、電車は無情にもゆっくりと発車していく。

 速度を上げていく電車の車掌室に目を遣ったが——誰もいなかったような気がした。


 無人駅に1人、残されてしまった飛田。

 何かが、焼け焦げるような匂いがする。

 夜空には多くの星が瞬いていたが、月がないため周囲は暗い。


「……そうだ。ミランダさん、来てください!」


 恐怖心と心細さがあいまって、ミランダを呼ぶ声にも力が入る。


「……そんな」


 しかし、何の反応も無かった。いつもなら1秒も経たぬうち、弾けるような虹色の光が現れるのに。


 夜の山中にぽつんと存在する無人駅に、飛田は置いてけぼりとなってしまった。


(またおかしな世界に、いざなわれてしまったんでしょうか……)


 ふと顔を上げると、ひび割れて埃だらけになった駅名標が目に入った。


 駅名——『霊叢たまむら駅』——。

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