7.天ノ河勇美と、邪竜パン=デ=ミールの子


 黒猫の、ポコ。

 ゴマの家族の一員の雄猫であり、星猫戦隊コスモレンジャーのメンバーであり、そして魔法戦士“ピア・チェーレ”のメンバー——天ノ河あまのがわ勇美いさみとして活躍した。


(愛美姉ちゃんに久々に撫でてもらえて、ホッとした。妻のユキも、チビ3匹も元気だったし。メル姉さんもじゅじゅ姉さんも、変わりなかった。それにしても愛美姉ちゃんのお父さん、リュカって名前で一緒に戦ってたのはびっくりしたな)


 稲村家から星猫戦隊コスモレンジャーの基地に帰ってきたポコは、自室で今までの事を思い返していた。


 突然現れた謎の妖精——ロウ、クマーンに、ポコはヴィーナス共々何の予備知識も無いまま、“夢の世界グランアース”に連れて行かれてしまった。その時、魔王ゴディーヴァを倒すために、美少女魔法戦士“ピア・チェーレ”として戦って欲しいと頼まれた。

 待って、僕は雄猫だよ!? と言う暇もなく、魔法をかけられたポコは光に包まれ、人間の女の子の姿になった。

 そして“天ノ河あまのがわ勇美いさみ”と名乗ることとなった。

 同じくヴィーナスも人間の女の子——癒月ゆづき星愛ティアとなり、一緒に“ピア・チェーレ”のメンバー——悠木愛音アイネ雪白友莉ユーリを探すこととなる。


 そしてウキョーの競技場で悠木、雪白と出会った末、双子山の谷間にて、悠木ピア・ラヴィング雪白ピア・フレンズ癒月ピア・ヒーリング、そして天ノ河ピア・ブレイヴの4人で共闘。サーシャを撃破する。


 これからも4人で力を合わせて戦っていくべく、動き出したいところである。

 だが、そうも行かないみたいだ。

 ヴィーナスがゴマに夢中で、勝手な行動ばかり取っている。今も、どこにいるのかわからない。

 そしてマーキュリーも、未だに行方不明のまま。




 地底国ニャガルタの時刻は、正午を回ったところだ。

 基地の食堂でも、未だにポコは今までの事を思い返し続けながら、ライムが作った魚料理を口にしていた。


(僕が“ピア・チェーレ”のメンバーになっている事は、ソールさんたちにはずっと秘密だ。……だって、恥ずかしいから)


 いまだに見つからないマーキュリーの捜索で緊迫しきった星猫戦隊コスモレンジャーのメンバーたちだったが、今だけはみんな美味しい魚料理を口にして、少し表情が緩んでいる。


(ソールさんは特に……体壊さないで欲しいな)


 少しやつれた、星猫戦隊コスモレンジャーのリーダーのソールを見て、ポコは思うのだった。


「今度はヴィーナスと連絡が取れない。一体何が起きてるんだ、全く……」

「ソールさん、ヴィーナスはゴマを追っかけてるだけだから心配無いよ」


 頭を抱えるソールに、ポコは声をかける。

 心配なのは、長らく行方不明のマーキュリーだ。

 星猫戦隊コスモレンジャーの副リーダーであり、ゴマとポコの母親であるムーンは、そんな状況でも冷静だった。


「今は、捜しに行っている皆さんを信じましょう。ゴマたちが持ち帰った、夢の世界についての情報の分析を急ぎます」


 これから、どうすべきなのか。

 悠木アイネ雪白ユーリも、元気だろうか。

 癒月ヴィーナスも連れ戻して集結し、早く魔王軍との戦いに参加しなければ。


(アイネとユーリだけでは正直不安だし、僕がいたとしても、あの魔王軍を相手にしていくことは難しいだろう。やっぱり癒月星愛ヴィーナスの回復力がないと……)


 考えていると、ニャイフォン15フィフティーンの通知が鳴る。


『ソアラくんの手術、無事終わったで。今は意識も戻ったし良かったらポコくんも顔出したってえや』


 スピカからだ。

 ポコはすぐさま、ソアラが入院している病院に向かうことにした。


 ソアラが病気だった事は、彼が入院してからポコに知らされた。

 マーキュリーの捜索で忙しく、見舞いにも行けていなかったが、手術が無事に終わったというのは吉報だ。


「ポコくん、どこへ?」

「ソアラくんが手術終わったって。今からお見舞いに行ってくる」


 ポコは荷物をまとめ、基地の玄関を出た。



 庭に出た時、唸るような鳴き声が森に響き渡った。


「グォオオオオン」


 見ると、黄緑色の体色の大きな4本脚のドラゴンが、デンと座り込んでいるではないか。背中に、コウモリのような大きな羽が畳まれている。


「【ミール】だ。回遊から帰ってきたのだろう。邪竜パン=デ=ミールが遺した卵から生まれた、新たなチキューの守護竜だ」


 玄関から出てきたソールが、解説してくれた。


「い……いつの間にこんなドラゴンが……! 邪竜パン=デ=ミールの子供って……大丈夫なの!?」

「あの子はもう純粋な守護竜だ。心配はいらないさ。病院まで、乗せて行ってもらったらどうだ?」

「えっ! 乗せてもらえるの?」


 ソールに言われるまま、ポコはミールの背に跨った。


「行き先は、ニャンバラ中央病院だ。ミール、頼んだよ」

「グォオオオオン」


 ソールの言葉に反応したミールは、ポコを背に乗せて大きく羽ばたき、飛び立った。


「うわああああ! 凄いや……! ミール、よろしくね!」

「グキャアアアン」


 桃色の空を駆ける、竜の子と黒猫戦士。

 夢見心地で、遠くの空と、上空からのニャンバラの街の風景を目に焼き付ける。

 涼やかな風が、祝福するようにポコとミールの横を駆け抜けていった。


 ——あっという間に、空の旅は終わった。

 ニャンバラ中央病院の正面玄関に着陸すると、ミールは再び基地の方へと飛び去った。



「ソアラくん、もう! 心配かけて!」


 病室に入るや、寝かされたままのソアラにポコは駆け寄った。


「ポコ、すまねえな……! 心配させねえために隠してたんだけど、逆に心配させちまって……! でも、もう大丈夫だ! 無理さえしなきゃ、死ぬこたあ無えよ!」

「そうか、ソアラくん……。ずっと隠してたんだね……。でもほんとに無理はしないでよ? 君は頑張り屋さんだからね。マイペースに、命大事に、だよ」


 ソアラは、目を細めて頷いた。

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