2.望・聞・問・切


 ガラガラと襖が開けられ、中に招き入れられる。


 白院びゃくいんの“診察室”は、6畳ほどの広さの畳張りの部屋。床に座布団が2つ、ちゃぶ台が1つ。後は漢字で“天人合一”と書かれた掛け軸、部屋の端には木製の箪笥が1つあるだけだ。

 医療機器があるわけではない。

 一体、どのような診察をされるのだろうか。


「プリーズ、シットダウーン」

「あ、はい」


 座布団に腰を下ろす。

 白院はちゃぶ台を部屋の隅に運ぶと、飛田ミオンと向き合うように座布団を置き、座った。

 そして飛田ミオンの方へ顔を近づけて大きく目を見開き、飛田ミオンの全身を顔から順にじーっと見る。

 ひと通り見たのち、白院は頷いて口を開く。


「ディスイズ! 【望診ぼうしん】! ユーの体格、舌の色、全身状態を見まーす! 口の周りが黄色いネー! 脾臓と胃が悪いでーす! 舌を出してくださーい! ……舌は正常! グレイト! でも、皮膚に艶がない! 大腸が悪いネー!」


 白院はまた顔を近づけ、今度は片耳を飛田ミオンの方に向けた。「ふむふむ」などと言いながらじっと耳をそばだてている。

 その姿勢のまま、またもハイテンションな声を発する。


「ディスイズ! 【聞診ぶんしん】! 呼吸の状態を聞いてましたー! ミオーン、セイ、あーいーうーえーおー!」

「……あー、いー、うー、えー、おー?」

「ちょーっと声掠れてるネー! 声の艶を聞くのも“聞診”デース!」


 白院は、毛筆で何やらメモを書いた後、姿勢を正して正座をし、真っ直ぐに飛田ミオンを見据えた。

 飛田ミオンも思わず姿勢を正す。


「ディスイズ! 【問診もんしん】! ……今までの病歴を! プリーズ、テルミー!」

「あ、はい……」


 問診、これは現代医療でも行われている事だ。それと同じく、病状、既往歴・家族歴を聞き取ることで、どんな病気が隠れているかの手掛かりを得る方法らしい。

 飛田ミオンは、胆石症を患ったことを中心に、今までの病歴を丁寧に伝えていった。幸いにも問診中の白院は大人しくしていたので、正確に病状を伝えることができた。そこはやはりプロなのだろう。

 そして、最後に。


「ディスイズ! 【切診せっしん】! あチョイと失礼〜、ナンチャッテ」


 今度は、腹部、首元、そして手首を順番に、軽く押さえるように触れられていく。触診と同じようなものだろう。


「脈はちょっと速いけど異常無いねー! ハイ、いよいよドッキドキの診断デース!!」


 白院も、ねずみの医師ハールヤと同じく、こうして身体に触れることで病状が分かるらしい。


「パンパカパーン! ミオーン! 血とのめぐりがベリーバッド!」

「血と、氣……ですか」

「イェース! 無駄なあぶらが溜まって、毒が排泄されずに体中に回ってマース! 心臓は問題ナッシング! バット、血圧がちょっと高ーい! 肝臓、胃、腸がヘタってきてるねー! 膵臓も弱って血糖も上がってマース! 前に石があった胆嚢は炎症があるぐらいでー、ギリセーフ!」


 健康診断のように数値では教えてもらえないが、体に触れるだけでこれだけの事が分かってしまうことを、飛田は素直に凄いと思った。

 あるいは、何かしらの魔法や能力スキルでも使っているのだろうか。


 何にせよ、今の飛田ミオンは、ほぼ不健康だということだ。

 せっかく、一度は健康を取り戻せたのに、己の心の弱さにより、元の木阿弥だ。胆石症が再発しなかったことだけは、不幸中の幸いだ。


「【天人合一てんじんごういつ】の境地には程遠いー! ライトナウ! 秘伝の【瓢腹呼吸ひさごばらこきゅう】を伝授しようー!」


 立ち上がり、右腕を高々と挙げながら声を響かせる白院。

 何やら、また新しい健康法を教えてもらえそうだ。

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