25.VSオロチ


 優志ミオンは、ラデクにパーティーを追放された。

 そしてラデクを見返すために、“仙丹せんたん”を飲んでまで強くなった——つもりだった。

 謎の老人、かなえの忠告も聞かず。


 仙丹を飲んだ結果、マッチョな体型と並外れた戦闘力だけでなく、大金を手にし、女性にもモテた。その結果、気が緩んだ優志ミオンは、自身の使命すら忘れ、本能のままに食っちゃ寝の生活を繰り返した。

 

 結局仙丹の効力は解けてしまい、リンリンには愛想を尽かされ、ゴールドも持ち去られてしまった。

 残ったのは贅肉たっぷりの身体と、丸裸にされた弱い己の心のみ。


 そして、見返したかったラデクに、さらなる醜態を晒してしまった。

 なのに——。


「ミオン様、僕が間違ってた。ごめんなさい……。ひとまず先に、あのオロチを始末しなきゃね!」


 ラデクに謝られた。

 何があったのだろうと思ったが、今はオロチを倒しメイメイを救うのが先だ。

 首を2つ斬られオロチは瀕死だが、メイメイはまだ残りの頭に咥えられたままだ。


 しかし、今の優志ミオンは何もできない。錆びついた鉛のように身体が怠くて重くて、吐き気がするほど気持ちが悪い。


「すみません……本当に、私は情けないです」

「僕らに任せて、ミオン様は休んでて! サラー、オロチは“土”属性! “木”属性を使うんだ!」

「OKー、いくわよー、ラデクー」


 サラーが杖を掲げると、若葉色をした稲妻のような光が杖から放たれ、周囲の植物にヒット、炸裂した。

 すると植物からいくつものつるがまるで生き物のように伸びていき、それらはラデクの剣へと集まっていく。

 蔓はあっという間に、剣へと巻きついた。

 ラデクはそのまま剣を振るうと、蔓の根本が植物から切り離された。そして剣に巻き付いた蔓を鞭のようにしならせながら、彼はオロチの元へ駆けていく。


「【ヴァインウィップスラッシュ】!!」


 オロチの体目掛けて、蔓に巻かれた剣を振り下ろす。蔓の鞭が、激しくオロチの体を打ち付ける!

 怯んだオロチ。ラデクはその隙に、オロチの残りの首を次々と切断。それぞれが断末魔を上げたのち、動きを止めて落下する。

 メイメイを咥えていたオロチの頭も斬り落とされ、真っ直ぐに落ちていく。


「うおおおおお!!」


 優志ミオンは死に物狂いで身体を動かし、落下するメイメイの元へと駆けつけた。

 腕を広げ、メイメイを受け止める。間に合った。


 メイメイを抱える優志ミオンの後ろで、オロチは地響きと共に爆散。光となり、天に昇っていった。


「ミオン様ー!」


 ラデクに呼ばれ振り向くと、彼は地面に転がる2つの宝箱を指差していた。オロチが残していった宝箱だろう。


「ミオン様ー、ナイスキャッチねー。あとは任せてー」


 メイメイをサラーに預け、2つの宝箱の元へ。

 1つ目の宝箱を開けると、中には数多くの金貨。


「20万ゴールドもある! やったね、ミオン様! これで安心して旅が続けられるよ!」

「ああ……良かったです……」


 ラデクが忘れて行ったゴールドの袋をリンリンに取られてしまっていたので、ここでまた大金が入って、ひと安心だ。


 もう1つの宝箱には、つばの部分に紅色の勾玉が飾られている、刃長の長い刀が入っていた。


「これは! ドラゴンによく効く剣、【ブレイド・オロチ】だ。ミオン様、とっときなよ」


 “ブレイド・オロチ”を持ってみるも、やはりずしりと重くて腕が震える。鍛え直さなくてはと思いつつ、やむなく今はラデクに預けることにした。



 重い体を引きずり、ひとまずサラーが待っているベンチへと向かった。

 平和が戻った“シェイシェイ”。人々が安堵する声が聞こえる。

 メイメイの怪我は、サラーが“メガヒール”で癒したようで、傷は全て綺麗に塞がっていた。だが、メイメイは気を失ったままだ。


「ラデクくん、すみません。私はまだまだ弱いです。強くなろうとして、“仙丹”なんて怪しげなものに手を出してしまって……。私がクビになるのも、仕方ないです」


 改めて、優志ミオンはラデクに頭を下げた。真っ直ぐに、ラデクの目を見ることも出来ない。

 だがラデクは以前とは違い、落ち着いた様子で言葉を返した。


「“仙丹”……僕も手を出すところだったよ。あの後、ゴマくんに気付かされちゃって。僕もまだまだ未熟だなって。本当の強さは、そんなに楽に手に入るもんじゃないんだね」

「本当に、懲りました。……そういえばゴマくんは今どこに……?」


 ラデクは少し渋い顔をする。


「ゴマくんは……家に帰っちゃった」

「え?」

「僕も“仙丹”を探すって言うと、みんな“仙丹”なんかに手を出して、楽して強くなろうとしてんじゃねえよ、もうボクやってらんねえとか言って、ミランダさんのワープゲートで帰っちゃった。僕のせいでもある。ごめんね」

「そうですか……。ゴマくんは……努力家のソアラくんと本気でぶつかり合いましたし。そう思うのも仕方ないでしょうね……」


 優志ミオンは、そんな地道な努力をせず、“仙丹”に手を出した自分自身の情けなさに、文字通りガクリと肩を落とした。

 つまめるほどの贅肉が、嘲笑するようにタプンと揺れる。


「ラデクくん、私は……」

「僕、これからもミオン様についてくよ!」


 出かけた言葉を遮られる。

 顔を上げると、ラデクが淀みのない、純粋な笑顔を見せてくれている。


「僕も焦りすぎてた。またじっくり鍛えて、強くなればいいんだ!」

「私もミオン様についてくわー。強くなるのに、近道はないのよねー。ダイエットならー、私に任せてー」


 仲間は、かけがえのないもの。

 ずっと力を合わせてきた仲間。これからも助け合って、先へ進んで行こう——。


「ラデクくん、サラーさん、ありがとうございます! 今度は地道に頑張る私を……いなちゃん、ゴマくんたち、そして悠木さん雪白さんに見せたいと思います!」


 優志ミオンは、口をキュッと引き締めた。

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