21.美女たちの誘惑


 仙丹を飲み、最強となった優志ミオン

 筋肉隆々の逞しい肉体に、どんな魔物も一撃で倒す戦闘力。今の優志ミオンに怖い物など、何ひとつ無かった。



 そんな優志ミオンは今、メイメイの家にいた。

 メイメイの家は、“ファンファン”からまたジャングルを通って小一時間の場所にある街“シェイシェイ”にある。

 平屋やパオばかりが建つ中、メイメイの家は3階建てで、敷地も300坪をゆうに超える豪邸。街の外から見えるほど目立つ。


 夜は人々がみんな寝静まる閑静な街だ。だが優志ミオンとメイメイは、夜のお楽しみの時間を満喫していた。

 メイメイは長身でありながら、その身体も魅力に満ちていた。大きな胸が揺れる。くびれたお腹から見えるヘソが誘惑する。少し古い言葉を使えば、ボンキュッボン。自慢のボディを優志ミオンに見せつける。


 健康を取り戻し、性的欲求も復活していた優志ミオンは、誘惑されるがままだった。


「……ねえミオン様。そろそろ……ベッドに行きましょう?」

「あ……そ、それはダメです! ……って、日本語を話せるのですか!」

「いいじゃない。あの勇者様を独り占めできるなんて。逃がさないわァ」


 肌寒い夜の街とは隔離された空間で、2人だけの熱い夜は更けていった。



 翌朝——。

 ベッドで眠ったままのメイメイをそのままに、優志ミオンは着替えを済ませ出発の支度をする。

 こんな自分を、ラデクたちに見られる訳にはいかない。優志ミオンは気持ちを入れ替える。

 早くラデクを見つけ出し、強くなった自分を見せて見返さなければいけないのだ。


「んー? ミオン様ァ、行っちゃうのォ?」


 こっそり出ていくつもりだったが、メイメイが目を覚ましてしまった。


「すみません、メイメイさん。仲間を……探さなきゃいけないので」

「だーめ。逃がさないわァ」


 ベッドから出たメイメイは歩み寄り、両腕で優志ミオンの腕をギュッと包み込む。


「すみません。私には時間がないのです……。ずっとここにいる訳には……」

「つれないわねェ。じゃあ、待ってる。このままいなくなってさよなら、なんて事しないでね」


 やけにあっさりと引き下がったな、と思う優志ミオン。ならば、と部屋を出て玄関に足を進めようとすると、背中をトンと叩かれる。

 ジャラリ、と金属のこすれる音が聞こえた。


「これ、持って行って。20万ゴールドあげるわァ」


 優志ミオンの両手に、200,000ゴールドぶんの金貨が入った袋が渡された。


「こ……これは……何故……。まさか、後で返さなきゃいけないとか、ですか?」

「私からのプレゼントよ。戻ってきてくれたら、またたくさんあげるからァ。……淋しい思い、させないでねェ。行ってらっしゃい」


 眉をハの字にし、目を潤ませながら上目遣いで見送るメイメイ。

 このまま出発すると、心にむず痒いような傷が残った感じがする——。

 上手いなあ、と思いながら優志ミオンは気まずそうに頭を下げ、そそくさと玄関から出て行った。



 朝食も食べずに飛び出したきたため、腹の虫が止まらない。どこかに食堂はないかと周りを見回しながら道を歩いていると、誰かに肩をトントンと叩かれた。


「あ、はい……?」


 振り向くと、お団子ヘアーでマシュマロボディの、背が低い女性が優志ミオンの顔を見上げていた。

 リンリンだ。

 彼女は中国語で何か言ってきたので、すかさずスマートフォンを取り出し翻訳する。


『家に来ませんか? 美味しい料理作ってあげます』


 ちょうどお腹は空いていた。だがメイメイとのこともあり、行くのは躊躇われる。


(……ご馳走してもらうだけです!)


 ご飯を食べたら、すぐにラデクたちを探しに行く。そう心に決め、優志ミオンはこくりと頷いた。


 リンリンの家は、この“シェイシェイ”ではよく見られるタイプの平屋。

 招き入れられると、真っ直ぐに客間へと案内された。


「ミオン様ァ〜、すぐできるからここで待ってるアル〜」

「あなたも日本語を話せるんですか……」


 リンリンは機嫌良さそうに、厨房らしき部屋へと向かって行った。

 ソファに座り、料理の完成を待つ。漂ってくるご馳走の匂いが唾液腺を刺激する——。



 30分ほど待った頃だろうか。リンリンが両手にお盆を器用に載せ、現れた。

 お盆の上には、チャーハン、餃子、酢豚などの中華料理の数々。


「さあ、召し上がるアル〜」

「わあ……朝から豪華ですね……」


 テーブルに料理が並べられると、優志ミオンは早速、派手な塗装の箸を手に取った。


「いただきます!」


 リンリンの料理は、絶品だった。

 他の事も全て忘れるほど、その味に夢中になる。夢中になって食べていると、テーブルの上には中華料理だけでなく、次から次へとメジャーなご馳走の数々が運ばれてくる。カレーライス、デミグラスハンバーグ、チーズチキンカツ、ハヤシオムライス、チャーシュー入りネギ味噌ラーメン——。


「あーんアル」

「あ、はい。あーん……」


 優志ミオンはリンリンに“あーん”してもらいながら、ぴとっとふくよかな胸を肘にくっつけられた。そして頬にチュッと口づけされたのち、耳元で囁かれる。


「ドカ食い気絶って、知ってるアル?」

「……何ですかそれ?」

「美味しいものを思いっきりお腹いっぱい食べたら、だんだん眠くなるアル。そのまま気絶するように眠れば、とても気持ち良くなれるアル……」


 言われるまでもなく、優志ミオンはかき込むようにご馳走を腹に入れ続けていた。

 あまりの美味しさに、箸が止まらない。食べても食べても、ご馳走は山ほどある。

 段々と、浮遊するような、夢を見るような、この世にある全ての幸せが満ち溢れるような心地よさに包まれてくる。

 まぶたが段々と下がってきた。


「可愛いアルね。メイメイには勿体無いアル」


 チュッと頬に温かく湿ったものを感じたのを最後に、優志ミオンは完全に意識を失った。



 ——気付けば、翌朝だった。

 客間のソファに寝かされ、柔らかな毛布を掛けられていた。


(……とても、動く気力が出ません……。それより、リンリンさんの作ったご馳走が食べたいです……)


 尋常ではない体のだるさ。ラデクに会いに行く事など、もうどうでもいいと思えるほどだった。

 それよりも、可愛い女性が作る絶品料理が、今日も食べられる。


「今日はチーズフォンデュアルよ〜」


 ラデクの事も、メイメイの事も忘れ、リンリンの家で豪華な料理を食べ、毎日“ドカ食い気絶”にハマる優志ミオン


 堕落していく勇者——。

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