22.ヴィーナス、完全失恋
「飛び出してきたはイイが、どうしたもんか。いっぺん帰ってのんびりするか……」
手を抜いて強くなろうとする
「あーあ。ソールさんたちが懐かしく感じるぜ。あ! そういや、マーキュリーさんを探せって言われてたな。手ぶらじゃ帰りにくいな……。ったく、どこにいるんだ?」
思い切り伸びをする。茂る木々の間から見える太陽の光が眩しい。
「やっぱり帰るか。猫に戻って、愛美姉ちゃんとこでゆっくりしよう。ユキと、チビたちの様子も見に行ってやるか」
ゴマは元々、稲村家の飼い猫だ。
行き詰まった時は、故郷に帰るのが一番。
そこには姉貴分のメル、じゅじゅがいて、同世代のユキは自身の3匹の子猫を育てている。そして、よく一緒にあちこち冒険した弟分のルナがいる。
ミランダを呼ぼうとした時だ。
トン、と誰かに肩を叩かれた。
気配なんかしなかったのに。誰だ? そう思いつつ振り向くと、そこにいたのは——。
「……またお前か。いつの間につけてきたんだ」
「私の名前は癒月
「ああ、そういえばねずみの街にいる時、誰かにつけられてた気がするんだよ。……
癒月の顔に、汗がひとすじ流れる。
「……バレてたのね。ゴマが1人になる、この時をずっと待ってた。あなたと……その……話がしたかったから!」
「話がしてえんなら普通に話しかけろよ! 気持ち悪りいな!」
歯を食いしばり、顔を背ける癒月だった。
だが
「そうだ、星愛。マーキュリーさん知らねえか?」
「だっ誰よマーキュリーって」
「知らねえか。ならいいや」
「あっちょっと待ちなさい!」
ミランダを呼ぼうとするも、癒月に腕をガシッと掴まれる。
「何だよ! ボクは帰りてえんだ」
「マーキュリーは知らないけど……ヴィ……ヴィーナスは知ってるわよ!」
「別にヴィーナスさんは求めてねえんだ。帰る」
「うっ……」
あからさまにショックを受けたような表情を見せる癒月に、
「お前一体何なんだ? ボクと話がしてえっつってたが、聞いてやるからさっさと用件言いやがれ」
癒月は顔を赤くして目に涙を浮かべていた。
なかなか用件を言わない癒月に、
「……最近、スピカとどうなの?」
ようやく口を開いたと思えば、低いトーンで放たれた言葉が、これだ。
何故、それほど仲良くもない奴が、
「何でそんな事までテメエ知ってんだ? 気持ち悪りいな! ボクは今イラついてんだよ。もうついて来るな!」
少し開けた場所に着くと、癒月が追ってこないのを確かめてから、ミランダを呼ぶ。
「ボクもう疲れた。ボクらの
「ゴマくん、1人なの!? じゃあ
「
「何があったのよ……。と……とりあえず繋げるわね」
久しぶりに、ゴマたちの棲処——稲村家のガレージに帰ったゴマは、毛布が敷き詰められた段ボールに包まって、深く深く眠った。
♡☆♡☆
星猫戦隊コスモレンジャーの仕事をサボって、ずっと大好きなゴマを追いかけて、ようやく2人きりになれたのに。
正体を隠したまま、2人きりで話がしたかったのに。
フシミ港からずっと後をつけてきたことがバレ、機嫌の悪いゴマに「気持ち悪い」と言われ。
じゃあヴィーナスとしての自分をどう思っているのかを聞き出そうとして——。
『何だよ! ボクは帰りてえんだ』
『マーキュリーは知らないけど……ヴィ……ヴィーナスは知ってるわよ!』
『別にヴィーナスさんは求めてねえんだ。帰る』
『うっ……』
求められていない事がハッキリと分かり。
ヤケになって、ゴマと交際中のスピカと今どういう状態なのかを聞き出そうとしてしまい……。
『……最近、スピカとどうなの?』
『何でそんな事までテメエ知ってんだ? 気持ち悪りいな! ボクは今イラついてんだよ。もうついて来るな!』
2度も、気持ち悪いと言われた。
完全に、嫌われてしまった。ヴィーナスとしての自分も、嫌われているに違いない。
『別にヴィーナスさんは求めてねえんだ』
『気持ち悪りいな!』
『ついて来るな——』
ゴマから言われた言葉を頭の中でリピートさせながら、癒月はジャングルの中を1人、彷徨う。
フシミ港の本屋で買った恋占いの本の内容を、血眼で見ながら——。
『カ
ア
本を握る手に力が入り、気付けばページの端が少し破れていた。
意味もないのに、何度も読み返す。ジャングルのど真ん中を歩き回りながら。
ゴマと両想いになる術はあるのか——。
夢中で読んでいたその時、ハリのある男の声が耳に入る。
「悩んでおるな、
顔を上げ振り向くと、見覚えのある初老の男性の姿があった。
「あ、あなたは。港で会った……」
「ああ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます