19.勇者ミオン様を捜して


 ラデクは、サラー、猫月ゴマと共に“ハオハオ”を出て、優志ミオンを探していた。


「勇者ミオン様に、謝りたい——」


 サラーと猫月ゴマに諭され、考えた結果出した結論だ。

 とりあえずは、隣街である“ファンファン”を目指していた。そこに、優志ミオンがいるかも知れない。

 そして、サミュエルから聞いた、飲めば最強になれるという“仙丹”——。猫月ゴマからは「そんな物に頼るな」とたしなめられたものの、ラデクはまだ諦めきれなかった。もし“ファンファン”にあるなら、サミュエルに取られる前に見つけ出そうと考えていた。


 そのサミュエルたちは、ラデクたちのいる場所から少し先の道を急いでいる。早足で行くサミュエルの後ろを、雪白とアルス王子が追う。

 まだ視界の中に彼らはいる。見失わぬよう、ラデクはサラーと猫月ゴマを引き連れつつ、足を急がせた。


 だがすっかり日も落ちて、ジャングルの中は見通しが悪くなっている。それでも当たり前のように、魔物たちは現れるのだった。


「くっ……! 【赤鬼あかおに】、【青鬼あおおに】、【餓鬼がき】、【アグニ】、【アスラ】だ!」

「なあに、ボクに任せとけ」


 前を行くサミュエルは、まるで片手で埃を振り払うかのように魔物を片付けどんどん先へ進むが、猫月ゴマも負けてはいない。


「“ギガ・ダークブラスト”!!」


 猫月ゴマは人間形態のまま“暁闇ぎょうあんの勇者・ゴマ”へと転身し、襲い来る魔物の数々を、瞬時に葬り去ってゆく。

 だが、魔物は次から次へと襲いかかってくる。


「しつけえな! ジャングルごとぶっ潰してイイか」


 猫月ゴマが怒りに任せて吐き捨てるように言った時だった。


 ズドン、と地響きがしたと思えば、少し離れた場所が、橙色の光に包まれる。


「何だ、何事だ!?」

「ジャングルがー、燃えてるわー!」

「ったく、ボスのお出ましか? ならボクが始末つぶしてきてやる」


 駆け出す猫月ゴマだったが、ラデクは制止する。


「今は寄り道してる場合じゃないよ! 地図もお金も置いてきちゃったんだ……。迷子になったら大変だよ!」

「ったく! ラデク、お前は考え無しに行動すっからだ!」


 何度も響いてくる爆発音は気になるが、今は“ファンファン”を目指すことを優先する。倒した魔物が落としたゴールドを、忘れずに拾い集めながら。


 サミュエルたちは見失ってしまったが、幸いにも街の光が少しずつ見えてきた。きっとあれが“ファンファン”だ。ラデクは少し安堵する。

 だがどういうわけか、街の周りには魔物が1匹たりとも存在しない。周囲の植物は焼け焦げてしまっている。


「【ゴールデンピカコ】、【メタルピカコ】の死体がいっぱいだ。倒せばたくさんのゴールドが手に入るんだけど……こんなに乱獲されるだなんて。一体誰が……?」


 ラデクは首を傾げる。サミュエルがやったのだろうか。それとも、今も少し離れた場所で爆音を響かせている何者かの所為なのか。


 ひとまず、“ファンファン”に到着。

 低い1階建ての家屋や店がまばらに並び、ポツポツと明かりが灯っている。


 夜の街を歩いていると、ジャングルの方面から今度は、激しい嵐のような音が聞こえてくる。振り向くと、ジャングルの方だけに分厚い雲がかかり、大雨を降らせていた。

 あまりにも不自然な光景だったので気になったが、今はそれよりも優志ミオンとサミュエルの行方だ。


「あ!」


 街道の入り口に目をやると、サミュエルたちが露天商の方へと足を進めていた。

 ターバンを巻き、ボロボロの服を着た男性の露店商が、店を畳もうとしている。


「聞いたところによれば、“仙丹”を売っているのは、あの露天商だ。“仙丹”は1つしかないらしい。俺が頂くぞ」


 聞こえてきたサミュエルの声。“仙丹”は1つしかない。このままだとサミュエルに取られてしまう——。


「お前! ずるいぞ!」

「おい待てラデク!」


 猫月ゴマの制止を振り切り、ラデクは駆け出す。

 だが、その前に立ち塞がったのは、雪白だった。


の邪魔しないで」

「どけよ! ずるい!」


 雪白を振り払い、露店に駆け出そうとした。

 その時、サミュエルの淡白な声が耳に入る。

  

「残念だ。既に誰かが買っていったようだ」


 露店商は残念そうな顔をして身振り手振りで、サミュエルに何かを訴えていた。


 ラデクがいることに気付いたサミュエルは、衝撃の事実を淡々と告げる。


「勇者ミオンが買っていった、とのことだ。残念だったな、少年」


 そんな、ミオン様が——?

 ラデクは唖然とする。


(ちょっと前、ゴマくんにコテンパンにやられた時、僕はすぐにでも強くなりたい、と思った。ミオン様の気持ちも同じだったのかな……)


 立ち尽くすラデクとは対照的に、サミュエルはさっさと切り替えていた。


「無いならさっさと、【夢幻の霊獣】の元へ行くぞ」

「夢幻のれいじゅー?」


 退屈そうにしていたアルス王子が、サミュエルに問う。


「“夢幻の霊獣”は、魔王軍に操られているらしい。呪縛を解き、“夢幻の霊獣”を味方につけるのだ。もうここには用は無い。それに、。早く行くぞ」


 サミュエルは街の反対側へと去って行く。雪白とアルス王子も、急ぎ足で彼の後をついて行った。



 ラデクは、この先どうしようかと思いながら、サラーと猫月ゴマの元へと戻る。

 ——やはりミオン様を探して、謝ろう。

 改めて、サラーたちにその意思を伝えようとした。だが——。


「ラデク、ボクパーティー抜けるぜ」


 猫月ゴマが、感情の色が無いような声を出したのだった。

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