14.謎の老人との出会い


「ゴマくん……」


 優志ミオンは、心配そうに見てくる猫月ゴマにどう話すべきか、迷っていた。

 目の前にいる彼が、唯一の味方のように思えた。

 猫月ゴマまでも、自分のことを見捨てたりしないだろうか。

 不安になりながらも、優志ミオンは事の顛末を話した。


「……何考えてやがんだ! ラデクの奴……。ボクほどじゃないにしても、優志まさしは強え! ったく! 呼び戻してきてやる!」

「あっ、ゴマくん! そっちは逆方向です……! ラデクくんはこっちへ行きました!」


 猫月ゴマは「だーもう!」と言いながら引き返し、ラデクたちが行った方向へ走り去ってしまった。


 地面にはパーティー共通の荷物——ゴールドの入った袋と、装備の入った袋が置いたままであった。

 確かめもせず、ラデクは飛び出して行ってしまったようだ。


 申し訳なくなりながらも、優志ミオンはそれらを回収。ずしりと重い荷物を背負い、猫月ゴマを追う。


 その時。

 優志ミオンの後ろから金髪の美少女が風の如く駆け抜け、猫月ゴマが行った道へと走り去って行く。


「あ、あの子は……癒月さん?」


 後を追うが、彼女の足は予想外に速かった。

 猫月ゴマと癒月が走って行った道は、なだらかな登り坂だった。坂道を登り切ってみると、既に猫月ゴマも癒月も、姿はなかった。

 代わりにそこにいたのは、“ウツボカズラ”の群れ。


「はあ、はあ……。このぐらい、今の私には何てことは無いです……! “フォルテ”!」


 食虫植物の魔物の群れが、瞬く間に一掃される。

 が、しばらくするとまた何処からともなく、ウツボカズラの群れが現れる。


 優志ミオンは、悔しさを紛らわすかのように、ひたすらウツボカズラの群れを倒し続けた。


 息が上がり、その場に座り込む。

 まだ残党が数匹。あと少しだ。

 フラフラになりながらも立ちあがろうとした、その時——。


「もし、そこのお方。もしや、勇者ミオンか」


 ハキハキとした男性の声が、優志ミオンの耳に入った。

 直後、男性の「ぬん!」という掛け声と共に、ウツボカズラの残党が瞬時にして葬り去られる。


 半ば呆然としつつ、優志ミオンら返事をする。


「はい、そうですけど……私は勇者と名乗っていいものか……」

「私の名前は、かなえだ。お主、強くなりたいのだろう?」


 叶と名乗る初老の男性が、優志ミオンを見下ろしていた。

 腰のあたりまである紺色の長い髪。口髭とあご髭も、同じく紺色だ。道着のような服には、黒い帯が締められている。

 優志ミオンは、しどろもどろになりながら返事をする。


「は、はい……」

「魔王を倒すため、強くならねばならん。そういった重圧と、長らく戦っているのか」

「それもありますが……。情けないことに、先ほどチームを追放されたところでして……」


 みなまで言わずとも叶は全て理解したかのように、コクリと頷く。

 そして遠くに視線を向けながら、口を開いた。


「この地に、飲めば最強になれると言われる、【仙丹せんたん】があるという」


 最強になれる——。

 目の前にいる謎の男が口にした、希望の言葉。

 ラデクたちを見返すチャンスだ——。

 優志ミオンは心躍らせ、すっくと立ち上がった。


「仙丹……ですか! それを探せばいいのですね……!」

「だが、仙丹には手を出すな」

「えっ」


 紹介しておいて、それに手を出すなとはどういう事か。

 せっかく優志ミオンの胸に宿った希望の光が、むなしくしぼんでゆく。


「そんなものに頼らず、地道に試行錯誤しながら、己を磨くのだ。それ以外に強くなる方法など、無い」


 強くなるのに、裏技や近道など無い。

 目を瞑りながら淡々と語る叶の表情は、厳しくも温かみを感じさせるものだった。

 地道に己を鍛え強くなるのは大事だ。しかし優志ミオンは、1つ大きな問題を抱えていた。


「とはいえ、この歳ですから……。もうすぐ39歳です。若い人のような体力もありません。本当に今から鍛えて強くなれるのでしょうか……」

「なら、この私はどうなる。見よ……!」


 叶は白髪混じりの青髪をなびかせながらゆっくりと脚を開き、左手で右腕を支えながら、右手を前に出した。

 目の前にいる初老の男から、近づき難いほどの気迫が感じられる。


!!」


 一喝するような大声でと共に、何が起きたか。


「うわあッ!?」


 叶の目の前にあった、高さ1メートルほどもあった大岩が、バリンと音を立てて爆発するように砕け散ったのである。

 飛んでくる破片から身を守るべく、優志ミオンはガードする。小さな破片が鎧にパチパチと当たる。

 

 触れてもいないのに、岩が砕け散った。


「す……凄いです。魔法では……ありませんよね?」

「これは、“”の力。氣というのは、宇宙と通ずる活力の源。誰しもの体内に流れている。お主も鍛えれば、使うことができる」

「氣……。初めて知りました……」

「氣はまた、健康の源でもある。体内の氣を滞りなくしっかり流すことで、人は健康になれるのだ。私は60年生きたが、このとおり私はだ」

「年齢など、関係ない、と……」


 叶は再び目を瞑り満足げにコクリと頷くと、ジャングルの奥へと続く小道を指差した。


「【白院びゃくいん】様という和尚おしょうが、この先にある【ファンファン】という街におられる。まずは白院様に会いに行け。きっと、強くなるヒントと、健康になるヒントが与えられるだろう」

「分かりました。あの、ありがとうございます……。よろしければまた色々教え……」

「縁があればまた会おう」


 言い残し、忍者の如き素早い動きで去って行く叶であった。

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