12.別離
「勇者ミオン様……いや、ミオン! あなたは俺たちのパーティーから、追放する!」
ラデクに指差されながら、
「おいガキ! ふざけんな! 滅多なこと言うもんじゃねえぞ!」
サラーと悠木が止めにかかるが、
だがそれでも、ラデクはキッと口を結び、
「確かにラデク、お前は戦術には長けてるかもしれないが、思い上がり過ぎだ! 独断で決められるほど偉いのか!? ええ!? 勘違いするなよ!」
「やめて下さい、いなちゃん。いいんです、ラデクくんの言う通りです」
「
「私は……」
言葉が出てこない。
私は私のペースでやりますから、好きにしてください——感情的になって口にした、さっきの言葉を撤回すべきか。
だが、何を言うべきか分からない。
考えているうちに、
「何だよ、ハッキリしろよ! お前がそんなだったら、俺たちみんなどうしたらいいか分かんねえだろ!」
そんなこと、分かっている。
でも、自信が無いのだ。
一連の失態で、すっかり自信を失ってしまったのだ。
何を言っても説得力がない。結局、小声で「すみません……」としか言えなかった。
そんな
「僕は……サミュエル様についていくから。みんなもどうするか決めてよ」
ラデクの目に、迷いはない。
呆れてため息をつく
「ねえラデクー……、もう一度考え直さないー?」
「もう決めた事だから。サラーも、早くどうするか決めなよ」
ラデクの意志は変わらないようだ。
その時、ずっと黙っていたサミュエルが静かに歩み寄り、口を開いた。
「いずれ、こうなることは分かっていた」
その存在感のある声に、みんなは一斉にサミュエルの方を振り向く。
「勇者ミオン、貴様に魔王ゴディーヴァを倒すのは無理だ。そのような優柔不断な態度で、勇者が務まるはずがなかろう。魔王ゴディーヴァは、俺が倒す」
サミュエルの言葉が、自信を喪失した
「今の化け物を倒したのも、俺の腕を試すついでだ。仲間など必要無い。それでもついて来たければ、勝手にしろ。但し、邪魔になるようならば即刻、斬る」
それだけ言って、背を向け、立ち去ろうとするサミュエル。
そんな彼の周りを、アルス王子は、「またまたそんなこと言っちゃってー!」とか何とか言いながらまとわりつく。
呆然としながらその様子を見ていると、雪白がすっくと立ち上がった。
「私もサミュエルさんについていく。皆さん、ごめんなさい」
「ピノもサミュエルの方が頼りになりそうだと思うぴの」
雪白と、彼女のバッグからぴょこっと顔を出したピノはそう言葉を残すと、サミュエルを追って駆け出した。
悠木は慌てて声を掛ける。
「
「みゅー! ピノ、待つみゅー!」
悠木のバッグから顔を出したミューズがピョンピョンと飛び跳ねる。
しかし、雪白は振り返らない。
「友莉ー!!」
悠木は顔を赤くして涙声で叫んだが、その声は雪白に届くことはなかった。
声を掛けようにも、言葉が出てこない。
「私もう嫌!
「アイネ……元気出すみゅー……」
「もういい。俺も帰る。
見慣れたその美しい光も、今の
光の中からミランダが現れるや否や、彼女は今の状況を見て目を丸くする。
「えっ、どうしたの? みんな……」
既に遠くまで足を進めたサミュエル。その後ろをラデク、アルス王子、そして雪白が追う。
サラーは、さらにその後ろを慌てて追いかけていた。
「ね、ねえみんな一度帰って、頭を冷やしたら!?」
「友莉も、危なくなったらすぐ帰りなよ!」
ミランダの声も悠木の声もサミュエルたちに届くことはなく、彼らは木々の陰に消えてしまった。
「先に
「うん……愛音ちゃんの家に繋ぐね」
地面に現れた虹色のワープゲートは、儚く光を散らしている。
「みゅー……。大変なことになったみゅー……」
「ミューズ、友莉とピノちゃんはきっと帰ってくるって信じよ?」
「そうだねみゅー……」
悠木は、小さく「ごめんね飛田さん……」と涙を浮かべたまま言いながら、光の中に消えていった。
次いで、ワープゲートの行き先が
目も合わせてくれなくなった、親友
情けない。悔しい。勇者失格だ。自分のことが嫌になった。
そして、こういう時はいつも——。
『あーあ。お前はダメな奴だポン。お前に魔王を倒すなんて無理だポン。大人しく家に帰って、カーチャンのオッパイ吸ってねんねするがいいポン』
——あの嫌な幻聴、ポンタの言葉が聞こえてくるのだ。
だが、こんなところで負けるわけにはいかない。
心はズタズタだが、
(こんな自分、嫌です。でも嫌だからこそ、自分を変えてみせます。必ず、ラデクくんも、みんなも、見返してやります——)
「
「はっ……! あ、ミランダさん……」
ミランダの呼びかけで、
「優志くんも、一度帰ったら?」
心配そうな顔でミランダに問いかけられるも、
「いえ……。私はこのままではいけません。変わらなければ。強くならなければ。当面は1人で自分を鍛えて、きっとラデクくんもみんなも見返します!」
「……そう。でも一度休んだほうが……って、あ! ちょっと呼ばれたわ。ごめん!」
誰かに呼ばれたらしく、姿を消すミランダ。
1分も経たぬうちに、再び虹色のワープゲートが出現する。
そこから現れたのは——。
「よぉ。遅くなったな。最強のゴマちゃんが戻ってきたぜぃ……って、何だ。
猫の姿のゴマだった。
遅れて、ミランダも再び姿を現す。
話をしている最中にミランダを呼んだ誰かというのは、ゴマだったらしい。
「ゴマくん……。実は……」
「待て。この姿で話すのもなんだから……ミランダ、頼むぜ」
ミランダがゴマに虹色の光を放つと、再び人間の姿——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます