10.鳳仙花


「ラデクー!」

「ラデクお前大丈夫か! “メガヒール”!」


 コングに殴り飛ばされ、地面に叩きつけられたラデク。想像し難い痛みなのだろう。掠れた声で叫びながら、もがき苦しんでいる。

 稲村リュカはラデクの手当てを済ませると、素早く自身の武器を振りかざした。


「【ゴールデン・スピア】だ。喰らえ!」


 咄嗟に、稲村リュカは金色の槍を構え、コングに突撃した。不意をつかれ、体勢を崩すコング。

 その隙に攻めてしまいたいところだったが、優志ミオンは自分の失態の申し訳なさに戸惑い混乱していた。意思に心がついていかない。


「“フラタニティ・フラッシュ”!!」

「“アイスロック”!」


 そうしている間に、悠木ラヴィング雪白フレンズの合同必殺技と、アルス王子の魔法が炸裂。

 ウツボカズラの群れ、そして先程のコングが一掃される。アナコンダは、氷塊アイスロックに潰された。


「やったね! アルスくんもカッコよかったよっ!」

「ふふっ、ありがとう。アイネも素敵だったよ」


 アルスにそう言われた悠木ラヴィングは、顔を赤くしながらぺろっと舌を出した。


「船で役立たなかった分の借りは、返せたでしょう」

「みゅー!」

「ぴの!」


 雪白フレンズは、ひと仕事終わったとでも言うように、ふうと息を吐く。


 優志ミオンは、俯いていた。

 何もできなかった。

 魔海ウツボを倒したことによる慢心があったのだ、と反省する。

 それに加え、慣れない地での戦闘。

 立ち上がり、皆に頭を下げた。


「皆さん、すみませんでした……」

「もう、戦闘中は気を引き締めなきゃダメだよ! 魔海ウツボと戦った時もボーッとしてたしさ。これからどんな奴が出てくるか分かんないんだから、しっかり頼むよ!」


 ラデクは眉毛を逆ハの字にして、怒声を上げた。声の調子から、結構本気で怒っているのが分かる。


「まあ今回は仕方ないさ。ほら、元気出せ優志ミオン!」


 稲村リュカに肩を叩かれ、悲しくなりながらも優志ミオンは顔を上げる。

 すると、視線の先に——。


「あの……後ろに……」

「ああ? オバケでもいるのか?」


 居たのは、ペイントされた怪しい仮面を被り、槍を持った上半身裸の男たちが数人。

 優志ミオンはたじろぎ、後ろを振り向く。するとそこにも、同じ姿の謎の男たちが並んでいた。

 完全に囲まれてしまっていたのだ。


「ウババ!」

「ウババボヘバホア!」


 何を言っているのか分からない。彼らは何者なのだろうか。


「【ウンババ民族】だ」

「ウンババ民族!?」


 ウンババ民族のうちの、ガタイが良く背の高い1人が、大きくジェスチャーをする。

 片腕を自分側へ引くような仕草だ。

 ついて来い、ということだろうか。


「とりあえずついて行ってみよう。みんな、気をつけて!」

「そうねー」

「友莉、怖いよ……何このおじさんたち……」

「何言ってるのか、全然分からないわね……」


 ラデクに従い、みんなついて行く。

 優志ミオンは最後尾だった。本来ならパーティーリーダーとして、判断し皆を導くべき立場だが、それを完全にラデクに取って代わられている。

 先程の失態は大きかった。優志ミオンは、パーティーリーダーとしての自信が揺らいでいた。



 ウンババ民族に導かれ、優志ミオンたちはジャングルの奥へと行く。

 一応優志ミオンは、道に迷わぬよう地図をしっかり見て確かめながら、相変わらず最後尾をついて行った。


「ウババ!!」


 ウンババ民族のリーダーの男は足を止め、持っていた槍で前方を指しながら、優志ミオンたちの方を見た。


「な……デッカい……!」


 ウンババ民族が示した先にいたのは、先ほど戦ったウツボカズラの数十倍の大きさを誇る巨大な植物だった。

 葉っぱだけで5メートルはある。本体である巨大で真っ赤な花の真ん中には、牙のような鋭い棘が蠢いていた。


「これを倒せってことですか……」

「みんな、あれは【鳳仙花ほうせんか】だ! “木”属性だから火が効くよ! サラーはすぐに魔法の準備、他の人は防御態勢!」


 優志ミオンが感心している間に、ラデクはテキパキと指示を出す。

 慌てて獅子の盾を構え、距離を取ろうととしたその時——。


 鳳仙花の真っ赤な花に、自然あふれるジャングルには似つかわしくないような禍々しい赤い光が宿っていく。

 花は、優志ミオンに向けられた。


「ミオン様! 避けろ! 猛毒のレーザーが来るぞ!」


 ハッとした時には既に、優志ミオンの視界は赤紫色に染まっていた。


 ————


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