9.チャイ大陸


『お待たせしました。間もなく“チャイ大陸”に到着です』


 うたた寝していた優志ミオンは、船内放送による操縦士の声で目を覚ました。

 ハッとして、窓の外を見る。


 既に、陸地の海岸は目前に迫っていた。

 砂浜の向こうには、青々と茂るジャングルがどこまでも広がっている。

 “チャイ大陸”に到着だ。


 ぐしゃぐしゃの海図を取り出し、確かめる。

 “チャイ大陸”は、オトヨーク島など比にならないほどの大きさを誇る大陸。そこには、首都ともいえそうな街【ハオハオ】が載っているのみ。そこへ行く道も載っていないし、自分たちがどこの海岸に到着したかも分からない。

 ともあれ、無事に目的の大陸に到着したのだ。優志ミオンは荷物をまとめて部屋を出、パーティーの皆と合流した。



「おう、優志ミオン。すげぇーな。ジャングルしかないぜ」

「いなちゃ……リュカ、無事に到着して良かったですよ、ほんと。あ、それは新しいエプロンですね」

「もういなちゃんでいいよ、ったくもう。これは魔法防御性能抜群の【大神官のエプロン】だ。ほら、お前も装備も今のうちに着ておけよ」


 既に大神官のエプロンと金色のスピアを手にした稲村リュカが言う。いつの間に装備を新調していたのだろうか。

 ラデク、サラーも既に装備を身につけていた。

 悠木と雪白はいつでも“ピア・チェーレ”に変身できるようで、装備は特に必要無いらしい。


 装備を身につけた優志ミオンの元へ、操縦士の男性が歩み寄る。


「どうぞ。これが“チャイ大陸”の地図です」

「あ……ありがとうございます」


 操縦士は地図を広げ、優志ミオンに見せた。

 海図には載っていなかった小さな街の数々や、そこに至る道も詳しく載っていた。


「到着したのは、この位置ですね。ここからはまず、繁華街の“ハオハオ”を目指されるとよろしいでしょう。獣道ですが、あそこから道が続いています」


 やはり、首都ともいえそうな街“ハオハオ”を目指すのが最初の目標となる。

 操縦士が指差した先に、砂浜からジャングルへと入る道があった。


「船はここで待機させておきましょうか?」


 操縦士に尋ねられるが、優志ミオンは首を傾げた。

 おそらく、何日も滞在することになるので、その間ずっと待っていてもらうのは申し訳ない。

 優志ミオンは、皆の意見も聞いてみることにした。


「確かミランダさんのワープゲートも、この“ワープゲートの素”も、一度行ったことのある場所ならいつでも行き来できたはずだよ。船は、“フシミ港”に戻してもらってもいいんじゃない?」


 ラデクのその言葉で、方針は決まる。


「そうねー。別の島に行きたい時はー、また“フシミ港”から行けばいいしー」

「では、そうしましょうか。操縦士さんに伝えますね」


 優志ミオンは操縦士に、“グランキャスター号”を“フシミ港”に戻してもらうよう、伝えた。


「では、この船は“フシミ港”へ帰還致します。良き旅になることを祈っております」

「ありがとうございました。また今後もお世話になります」


 優志ミオンたちは、帰って行く“グランキャスター号”を見送った。



「ミューズ、着いたよ!」

「ピノ、起きて」


 悠木はミューズを、雪白はピノを起こし、出発準備が整った。


「じゃあ、行きましょうか」


 優志ミオンたちは、ジャングルの間にある、踏みならされた道の入り口を目指した。


 ♢


 ひたすらに、ジャングル。

 ギャーギャーという野鳥の声。それだけでなく、聞いたこともない獣の声も木々の間から響いてくる。

 油断するとすぐ道に迷いそうだ。そうならぬよう、地図に描かれている道を確認しつつ、進む。

 所々にある看板は、腐食しているものも多くあった。


 しばらく進んだ時。

 ガサゴソと草叢くさむらから音がしたと思ったら、突然、全長5メートルはあろう大ヘビが首を持ち上げた。


「うわ! 【アナコンダ】だ!」

「いやーーっ! オバケヘビ!!」

「ちょっと愛音! 落ち着きなさい!」


 悠木の悲鳴に、アナコンダの方がビクついて後退りする。

 その隙に、悠木と雪白は“ピア・チェーレ”に変身する。


「ミューズ、は……早く!」

「みゅー!」

「ピノ、よろしく」

「がんばるぴの!」

「へーんしん! “ピア・ラヴィング”!」

「変身! “ピア・フレンズ”!」


 優志ミオンも“獅子の剣”と“獅子の盾”を構え、戦闘態勢を整えた。


 だが、敵はアナコンダだけではなかった。

 後方から、先程まで聞こえていた獣の声が近づく。「ウホ、ウホ」と少し間抜けな声だ。

 さらに、ずっと静かに揺れていた草が突然ガサゴソと動き出し、優志ミオンたちに襲いかかってきたのだ。


「【コング】、【ウツボカズラ】まで……! コングの攻撃力はめちゃくちゃ高いよ!」


 ラデクの声が震えていた。


 “コング”——筋肉隆々のゴリラ。しかしその身体は2メートルを軽く超えている。


 “ウツボカズラ”——1メートルほどある袋状の花をぶら下げた、食虫植物らしきモンスター。しかし、その動きを見ていると、虫ではなく人も食うだろう。


「みなさん、やりましょう!」

「回復は任せろ!」

「やるよ、サラー!」

「もちろーん」


 優志ミオン稲村リュカ、ラデク、サラー、悠木ピア・ラヴィング雪白ピア・フレンズは戦闘態勢を整え、それぞれ構えた。


「“ピア・チェーレ”の2人は、アナコンダに集中攻撃して! サラーは、ウツボカズラを!」

「「うん!」」

「任せてー」


 ラデクの指示通り、悠木ラヴィング雪白フレンズ、サラーはそれぞれの敵に向かっていった。


「ミオン様! 僕がコングをおびき寄せるから、止めを刺して! 武器はなるべく強いやつ!」

「わ……分かりました!」


 地面に置かれた袋から、武器を探る。


(武器……どれにしましょうか……。“獅子の剣”か、やはり“水竜の剣”か……。あ、“ミニゴールデンソード”もありますね。どうしましょう。“水竜の剣”は強いですけど陸地の魔物に効くかどうか……)

「何してんの! ミオン様、早く!!」


 振り向くと、コングとウツボカズラが2匹ずつ、ラデクの後方に迫っていた。


「あ……すみません! ……せいっ!」


 優志ミオンは、慌てて掴んだ水竜の剣を振るうが——。


「あっ……」


 手元から、見事にすっぽ抜けてしまった。

 “水竜の剣”はカランと虚しく音を立て、地面に落下。


「ああもう! ……ぐは! うわあ!」


 ラデクの体が宙を舞う。赤い血が飛び散った。

 ゴキッという鈍い音と共に、コングの剛腕がラデクをぶん殴ったのだ。

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