6.海の魔物たち


 優志ミオンは、稲村リュカ、ラデク、サラー、悠木、雪白、アルス王子、そして操縦士の男性が乗り込んだことを確かめ、出入り口の扉を閉じた。

 ちなみに癒月は、頑なに同行を拒んだため、一緒には行かないことになった。


「ボクがいなくてもしっかりやれよ、優志まさし。あ、そうだ。行方不明のマーキュリーさんをどっかで見つけたら、ミランダを通して知らせてくれ」


 外から猫月ゴマの声が聞こえたので、甲板に出て了承の意味を込めて手を振る。

 眺めていると、猫月ゴマたちの隣で飛び回るミランダが虹色のワープゲートを出現させた。

 蒼天ソアラはいつの間にか元の猫に戻り、暁月スピカに抱えられていた。そして猫月ゴマ暁月スピカの順に、ワープゲートへと消えていった。

 しれっと、癒月も後からワープゲートに入っていくと、虹色の光は消滅した。


 港に残ったのは、イングズのみ。こちらに向かい手を振ることもなく、ただ紫煙を燻らせながら見送ってくれていた。


 ♢


 穏やかな船旅が続いた。

 晴れ渡る秋の空に、筋雲が微笑みかけるように流れている。程良く暖かな陽射しが甲板に反射する。

 海面を見れば、水飛沫が同じ調子で後方に巻き上がっている。船は確かに進んでいる。


 優志ミオンたちは念のため、装備を身につけていたが——。


「魔物なんて現れないで、このままチャイ大陸に着きゃあいいな」


 稲村リュカが伸びをしながらそう呟いた。

 しかし、そう都合よくもいくわけもなく——。


「……って、言ったそばから! ぐわあ!?」

「いなちゃん……じゃなくてリュカ! 大丈夫ですか!」


 海面から、牙を剥き出しにした魚の群れが飛び出し、甲板に襲いかかってきた。

 全長は50センチメートルほどあるであろう。甲板に打ち上げられてからも、自力で飛び跳ねながら優志ミオンたちに噛みつこうとする。

 魚だけではない。直径1メートル足らずの2枚貝も一緒になって、大量に海面から甲板に飛び乗ってきている。


「【ピラニア】と、【ビッグシェル】だ!」

「いやああー!! 魚と貝のお化け!?」

「愛音、落ち着いて。変身していつものように戦えばいいのよ」


 ラデクの声に続き、悠木の悲鳴、落ち着いた雪白の声。


 海にもピラニアがいるのか、なんて感心している場合ではない。優志ミオンはすぐさま、先程入手した“水竜の剣”を構えた。


 各々、戦闘態勢に入る。


「いくぞサラー!」

「任せてー、ラデクー」

「私の想い、世界に届け! 愛の歌姫ディーヴァ! “ピア・ラヴィング”!」

「平和への第一歩、それは友を想う心……。友情の歌姫ディーヴァ! “ピア・フレンズ”!」


 ラデクの剣技、サラーの魔法。

 悠木ピア・ラヴィング雪白ピア・フレンズの合わせ技“フラタニティ・フラッシュ”。

 そして優志ミオンの、“水竜の剣”による鮮やかな剣技。稲村リュカの回復魔法。


 切り刻まれ焼け焦げたピラニアとビッグシェルが甲板を埋めていくも、次から次へとまた大量の仲間たちが海面から襲い来る。


 いや、違う。

 正確には、より強力な、新しい仲間を引き連れて、だ。


「気をつけろ! 【エビルシャーク】と【エビルシュリンプ】だ!」

「次から次へと……!」


 サイズは1メートル強ほどだが、群れで現れた小型のサメ、エビルシャーク。

 バスのホイールほどものサイズの赤エビ、エビルシュリンプ。

 両者はピラニアとビッグシェルに混じって、海面から甲板にあられの如く飛び込んで来る。


「僕もやるよ!」


 力強い声が響く。アルス王子だ。

 見れば、彼の持つ杖の先が青白く輝きを放っている。

 先程まで、魔力を溜めていたのだろう。


「【ドライ・フリーズ】!」


 アルス王子の杖から放たれた冷気が、海の魔物たちを包み込んだ。

 凄まじい冷気が暴れ回り、優志ミオンたちの髪も凍りつく。

 直後、パタパタと音を立て、甲板に何かが落ちてきた。

 見ると、見事に凍りついたピラニア、ビッグシェル、エビルシャーク、エビルシュリンプが、甲板の上に散らばっていた。


 恐れをなしたのか、海の魔物たちはもう海面から襲ってくることはなくなった。


「あ……ありがとうございます。アルスさん、凄いですね」

「アルスくーん!! めっちゃカッコよかったぁ」


 えへへ、と笑いながら頭を掻くアルス王子の肩に、悠木ラヴィングはベッタリとくっついていた。


 やはり、仲間がいれば頼もしい。

 1人では、何もできない。

 優志ミオンは強く、そう感じていた。


「ふう、またこれが定期的に来るんでしょうか……」

「何日くらいで、“チャイ大陸”とやらに着くんだろうな……」


 この数十分で、ドッと疲れを感じる。それは他のみんなもそうだった。


 運転手が言うには、“チャイ大陸”に到着するまであと2日足らずらしい。


「皆さん、ごはんにしますか」

「料理はまかせてー。ラデクー、手伝ってねー」


 優志ミオンたちは、フシミ港の住民たちからもらった食料で夕食を摂った。

 その後は魔物の襲撃もなく、悠木が持ってきたトランプでひととおり遊んだ優志ミオンたちは、安心して眠りについた。

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