4.剣と拳のコンビネーション


 癒月ゆづき星愛ティア——“ピア・ヒーリング”が現れ、優志ミオンたちのピンチを救ってくれた。


 巨大ナマズ——ヴァンニー・ヴァンヴァニディーロは、癒月ピア・ヒーリングの攻撃により誘惑されている。敵は、岸辺で癒月ヒーリングの方をジーッと見ているが、すぐ側にはグランキャスター号。船を壊される危機はまだ去ってはいない。

 優志ミオンは呼吸を整え気持ちを落ち着けてから、癒月ヒーリングに声をかける。


「癒月さん、あの敵が船から離れるよう、誘導してくれませんか?」

「これ以上は難しいわ……」


 癒月ヒーリングが返事するや否や、敵の目が再び黒く染まる。“女神の誘惑”の効力が切れたようだ。

 ヴァンニー・ヴァンヴァニディーロは再びのそのそと陸に上がり、大きなヒレを振り上げた。

 気を抜いていた猫月ゴマが、不意をつかれる。


「うげ……!? ぐわああー!!」


 猫月ゴマはヒレでブン殴られ、地面に叩きつけられた。


「ゴマくんっ!」

「ゴマ!」

「ゴマァー!」

「3人とも、行くな! 危険だ!」


 優志ミオン、そして癒月ヒーリング暁月スピカが、猫月ゴマの元へ駆けつけようとするが、稲村リュカに制止される。

 大きな影が、上空に迫る。ヴァンニー・ヴァンヴァニディーロがまたも、巨体を持ち上げたのだ。

 そして新幹線よりも速いと思えるほどのスピードで、その巨体を地面に叩きつけた。


「「うわあ!!」」

「んなー!!」


 嵐のように凄まじい土煙が、優志ミオンたちを吹き飛ばす。

 どうにか体を起こし、視界が晴れるのを待った。目を凝らすと、黒い巨体の周りで、稲村リュカ暁月スピカ蒼天ソアラ、ラデク、サラー、癒月ヒーリングが倒れている。


「皆さん……だ、大丈夫ですか!」

「俺は何とか。何なんだ、このナマズの化け物め……」

「あ、あれ? ゴマは!?」


 暁月スピカの声で優志は気付く。猫月ゴマの姿がない。


 黒い巨体は、再びゆっくりと体を持ち上げていく。猫月ゴマは、巨体の下にいた——。押し潰されてしまっていたのだ。


「「ゴマ!!」」


 暁月スピカ癒月ヒーリングの声が重なる。どちらが先とでもなく、2人は駆けつける。

 だが。


「いってえー」


 むくりと起き上がった猫月ゴマは涼しい顔をしながら、腰の辺りをさすっていた。


「ゴマくん! 大丈夫ですか!?」

「さすが相棒! 無事で良かったぜ!」

「お前、よく生きてたな!」


 今度は優志ミオン蒼天ソアラ、ラデクの声が重なった。

 腰をさする猫月ゴマのそばで暁月スピカはほっと胸を撫で下ろし、癒月ヒーリングは白けた顔でUターンして立ち去っていく。


 猫月ゴマは不満げに大声を上げた。


「無事じゃねえよ! ケツが痛え! 見ろ、ケツが真っ二つに割れちまった!!」


 何を言ったかと思えば、猫月ゴマはずいと、鎧ごとパンツを下ろし、尻を出して見せたではないか。

 そのそばで巨大ナマズは何か嫌な物でも見たかのように、大きな顔をブンと横に向けた。


「見せんでええ!!」

「あのなあゴマ。人間の尻というのは、元から割れてるんだぞ」

「あらやだー、いいお尻ー」


 暁月スピカは目を逸らし、稲村リュカは冷静にツッコみ、サラーは呑気な声を出す。

 そんな彼らを他所に、優志ミオンはヴァンニー・ヴァンヴァニディーロに狙いを定めていた。こちらを見ていない今がチャンスだ。


「ゴマ!」


 その間に癒月ヒーリング猫月ゴマの元へ駆けつけ、介抱を始める。


「またアイツか! ゴマにベタベタせんとって欲しいけど……」

「スピカ、今は癒月あの娘に任せとけ。俺たちは優志ミオンを支援するぞ」


 優志ミオンの体に、涼やかな水色の光が包み込む。稲村リュカの放った強化魔法だと、優志ミオンはすぐに理解した。


「目を狙います! 【フォルテ】!」


 真の勇者の技、“フォルテ”を連射。

 見事、ヴァンニー・ヴァンヴァニディーロの両目に命中。「ぐげぇ〜」と苦しげに声を上げる大ナマズ。その巨体で暴れるたび、地面が揺れる。


 横を見れば、癒月ヒーリングのおかげで早くも猫月ゴマは完全回復したようだ。


「ソアラよ、いけるか?」

「おうよ! ゴマ相棒!」


 立ち上がった暁闇の勇者・猫月ゴマの隣に、雲外蒼天うんがいそうてんの勇者・蒼天ソアラが並んだ。

 猫月ゴマは紫色に輝く剣を、蒼天ソアラは空色に輝く両拳を構える。

 黒い髪と茶色の髪が、風になびいていた。


「今だ。行くぜ!」

「喰らえーッ!」


 2人の勇者が、巨大ナマズを目掛けて同時に飛び出す!


「「【けんけん】ァァ!!」」


 剣と拳の、重い一撃が黒い巨体を穿つ。

 巨大ナマズの顔面が潰され、腹部は真っ二つに切り裂かれた。2つに分かれた黒い巨体は空中を舞い、水飛沫を上げて海に沈んだ。

 数秒後、水中で大爆発。波飛沫が優志ミオンたちに降りかかり、“グランキャスター号”が大きく揺れる。

 ヴァンニー・ヴァンヴァニディーロは、光となって天に昇っていった。

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