3.ヴィーナスの恋路
少し時間は遡る。
ここは猫たちの住まう地底国“ニャガルタ”の首都“ニャンバラ”の外れ、“星猫戦隊コスモレンジャー”の基地。
会議室にメンバーたちが集まる。行方不明のマーキュリーを含め一部、いないメンバーもいるが。
星猫戦隊コスモレンジャーのリーダーである白猫のソールは、立ち上がり口を開く。
「ミランダさんの力で、“夢の世界”とやらに行けると聞いた。ポコとヴィーナスはそこに行っていたそうだから、マーキュリーもきっといるはずだ!」
「ヴィーナス、いつの間にかフラーっと帰ってきたと思ったら、お前そんなヘンテコな世界に行ってたのかよ。何だよ、夢の世界って」
マーズに大声で言われたヴィーナスは耳をピクリと動かして、視線を逸らした。
片想い相手のゴマを追い、
だが帰るなりバッタリとソールに会ってしまい、どこ行ってたんだと問い詰められてしまった。ちなみにその時点では猫の姿だったので、癒月星愛であることはソールたちにバレてはいない。
「んー、話せば長くなる。私も行きたくて行った訳じゃないし。それより、ゴマは? ポコもいないじゃない」
「ゴマくんとポコくんは、ムーンの実家の
マーズの代わりに、ソールが答えた。ムーンが後に続ける。
「私も帰りたいんですけど、今は緊急事態ですから。スピカさんとソアラくんは、すぐにまた“夢の世界”へと出発していきました。私はまだよく知りませんが、何やら“夢の世界”では、大変なことが起きているようなのです」
「……ってことはゴマもきっと、出発したわね」
ヴィーナスは少し考えたが、ソールが口を開こうとしたため、それを阻止するように声を上げた。
「私がマーキュリーを捜しに、“夢の世界”へ行くわ」
もちろん、それは建前である——半分くらい。
ゴマを追いたいのが本音。
マーキュリーも大切な友達ではあるけれど。
しかしソールは首を横に振る。
「“夢の世界”は未知の世界だ。スピカさんとソアラくんを行かせたのは、向こうの事情を知っているからなんだ。何の手掛かりもない我々が無闇に動くのは危険だ。我々はどうすべきか……」
「ここは、ゴマたちに任せませんか?」
ムーンの提言に、残りのメンバー——マーズ、レア、ライム、デネブ、リゲル、フォボス、ダイモス——が拍手をする。
私だって、いや、私の方が“夢の世界グランアース”の事情を知ってるのに——。
そう言いたかったが、以前ポコと話し合った結果ヴィーナスもポコも事故で夢の世界に飛ばされ、ミランダの力で何とか帰って来れたということにしてソールたち話してしまったため、口にできなかった。
会議はお開きとなり、解散した。
♢
ヴィーナスは部屋に戻るなり、毛並みを整えると、小声でぼそりと言った。
「クマーン。来て」
橙色の光が現れ、その中から「くまくまー」という可愛らしい鳴き声と共に“癒月星愛”のサポーター、クマーンが姿を現す。
その2頭身の子グマの目から虹色の光線が床に放たれ、ワープゲートを形作った。
「確かにゴマたちのいる所に繋げたわね?」
「くまくまー」
ヴィーナスは迷わず、虹色の光の中に突っ込んでいった。
出た場所は、夢の世界“グランアース”の広大な海に浮かぶ島“オトヨーク島”南東部にある、“フシミ港”。
「何、あの変なナマズ……。あ、ゴマが!」
遠くに見えるガレオン船よりも巨大なナマズはその体を大きく持ち上げ、その下にある者たちを押し潰そうとしている。
巨大ナマズのすぐ下には——人間の姿で“暁闇の勇者”となった、愛するゴマが剣を構え跳び上がっている。
巨大ナマズの方が先手を取ったようだ。このままでは
「変身! 女神の聖なるエネルギーは、大切な誰かを癒す力! チューニング、スタート!」
光の中から飛び出したクマーンが橙の光を浴びせると、瞬く間にヴィーナスは人間の姿——癒月星愛となる。
同時にクマーンが投げた“リカバリー・チューニングメーター”を片手でキャッチ。
「世界が必要としているのは、魂を癒す
変身した癒月は、全速力で
「“女神の誘惑”!」
叫び、心に念ずると、巨大ナマズはその場で動きをピタッと止める。
巨大ナマズは目をハート形にさせ、のそのそと海へ戻っていった。
「間に合ったわね……」
「あ、あなたは……!」
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