39.現実世界での再会
冷やしてあったペットボトルのお茶を飲み、ベッドに腰掛ける。
ホッと一息をつこうと思ったのだが……。
(私の病気、本当に治ったんでしょうか……。また再発したら、どうしましょうか。“生命の水”があるとはいえ、何度も繰り返すと仲間のみんなに迷惑がかかってしまいます……)
再び優志の脳内を支配し始めた、病気の不安。
昨日までは倒すべき敵に意識が向いており、病気のことを忘れていた。が、ひとまずやることがなくなった途端、これである。敵と戦っている時の方が、ある意味で優志にとっては平和なのかもしれない。
『ほら、調べた方がいいポン。スマホで検索して調べれば、安心できるポンよ』
油断すると、脳内から発されるいたずらタヌキ“ポンタ”の囁き声も聞こえてくる。
病状を検索したい衝動を抑えきれなくなった優志は検索ワードに『腹部の痛み』と入力し、検索してしまう。
(胆石の他にも、こんなにたくさんの病気があるんですか……。それに、ほとんど自然に治らない病気ばかりじゃないですか! 自然治癒力って、案外当てにならないものなんですね……)
厳然と存在する自然治癒しない病気の数々に、優志の心は曇り始めた。ハールヤから教わった“自然治癒力”って、一体何だったのだろうか——。
とりあえず、信頼している田井中夏樹先生へ相談するため、優志は松田病院へ行く決意をするのだった。
♢
「はあー……元気出ないよぉー……」
微熱が出たため学校を休んだ
病院で検査キットを駆使し検査した結果、新型ウイルスによるものではなく、ただの風邪だと診断されたため、おとなしくベッドに横になっていた。
だるい体を何とか動かして体を起こし、母親が作った昼食のお粥を喉に通す。
体はだるいが、心は退屈している。
母親は出かけていったので、退屈しのぎに何か見ようと、テレビをつけた。
「あ……」
映っていたのは、高身長の男性たちに囲まれ、笑顔を振り撒きながら可愛らしい仕草でマイクに向かいコメントをする小柄な男の子。
北村
やはり、アルス王子にそっくりである。だが先日のことなど全く知らないかのように、激辛料理の感想をコメントしている。
無垢なその瞳に、悠木は吸い寄せられるように見入ってしまった。
「修司くん……。やっぱり、別人だよね?」
推しの声を聴いて、少しだけ元気が出た悠木だった。
♢
「次の方、どうぞ〜」
もちろんサインのお目当ては、宮元
それでも、宮元のサインが欲しい。
嫌われてなんか、ないはず——。
サインの順番が回ってきた。加速していく鼓動。顔面が紅潮する。
「いつも応援、ありがとね」
宮元のその言葉と、クールな笑顔。サイン色紙がそっと手渡される。
「わっ! こ、ここここれからも応援させてください!」
雪白は震える手で色紙を受け取ると、呼吸困難を起こしかけながら、トイレへ駆け込んだ。
嫌われてなかった。やっぱり、別人なんだ。良かった——。
何度もその言葉を脳内で反芻。
帰途、2回ほど車に轢かれかける。バクバクと暴れる心臓は、大人しくなる気配がなかった。
彼女が冷静さを取り戻すことができたのは、寝る間際のことであった——。
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