35.さよなら、猫拳士よ
「ソアラくん! ハールヤ先生のところへ行きましょう! きっと治してもらえますよ! 私の胆石でさえ、ここまで良くなったんですから!」
「行ったら……きっと入院だろうな! 入院なんてしたら、
「何言ってんだ! テメエは大人しくしとけ!」
「発作は滅多に起きねえから、そんなに心配ねえっての! それに、誰しも死ぬときゃ死ぬんだ! 入院して何も出来ないまま死ぬなんて、オレはごめんだぜ!」
「こないだの獣医さんは何も言うてへんかったのん!?」
「……別の病院で入院しろとは言われてた! でもその時点ではみんなに黙っててくれって、言っといたんだ……!」
ソアラの気持ちも汲みたい。
ソアラはそっとお座りの姿勢を取ると、窓の外に見える青い空を見上げて呟いた。
「死ぬ前に……一度、“勇者”ってのをやってみたいんだよな!」
だったら、あそこに行くしかない——。
「じゃあ、ソアラくんを勇者に転職させるため、“シジョー神殿”へ急ぎましょう!」
♢
パーティーメンバーは
「悪いな……! オレのワガママを聞いてもらって……!」
「マジで、無理すんじゃねーぞ。ほら、“生命の水”飲め」
「具合悪くなったら、ちゃんと病院行くんやで?」
ソアラは
今、魔物に襲われたら大変なので、
やがて、小高い丘の上に建つアラビア風の建物と、そこにつながる長い階段が見えてくる。軽く100段は超えているだろう。
「これ登るのかよー! オジンの俺にはきついぜ……」
「
元気にスタコラと階段を上っていくラデクや
どうにか上り切って息を整え、景色を見渡すと、なんとも美しい景観が広がっていた。
聳える双子山に、ウキョーの街並み。反対側には繁華街モヤマ、その向こうに小さく見えるコハータ村、そして“生命の巨塔”。
さらに向こうに目をやると、遠く遠く広がる大海原。太陽の光がキラキラと反射している。水平線の向こう側には、どんな世界が待っているのだろう——。
「おい、早く中入るぞ」
「あ……はい!」
別世界のような静けさ。水の流れる音。高い天井からは陽の光が射し込んでいる。
長い石畳の道が真っ直ぐに続いており、左右に透き通った水が流れる水路が造られていた。壁は全体的に水色がかっている。
透き通るような美しい景観に、全員が思わず口を閉じてしまった。ただただ、真っ直ぐ進む。
コツコツ、と足音が響く。
「そういえば……アルスさんはどこへ行ってのでしょう?」
「ん……? あ、本当だ。どっかで迷子になったのか?」
いつの間にやら、アルス王子がいない。
サミュエルを捜しに行ってしまったのだろうか——。
「気がかりですが、今はソアラくんのことが先です。行きましょう」
「そうだな」
行き止まりに、煌びやかな宝石を纏ったブラウスを身につけた銀髪の女性が、玉座のような椅子に座っていた。
両手を膝に置き、微笑みを湛えている。
彼女は
「あなた方も、転職をご希望でしょうか? お名前をどうぞ」
ソアラはもぞもぞと
「わかったわかったソアラ、暴れるんじゃねえ」
「オレの名はソアラだ! オレ、勇者になってみたいんだ!」
喋る猫にも動じず、女性はソアラに微笑みかけた。
「承知いたしました。お支払いは
「PAIPAI……ですか」
PAIPAIは、現実世界で使われているはずの電子マネーである。
「PAIPAIをご利用でなければ、現金でお支払いも可能です。その場合少し割高になりますが……。8,000
その値段にパーティーメンバーはギョッとするが、今さら後へ退くわけにもいかない。
「ソアラくんのためです、皆さん、お願いします……。海岸で倒した魔物からゲットしたぶんの
「すまねーな! オレだけのために!」
すぐに、仲間たちの温かな声を耳にした。
「俺たち仲間だからさ! ソアラくんのためなら安いもんだよ」
「ええよええよ。今はソアラくんの願い、叶えたげえや」
「僕は賛成だよ」
「そうねー、また魔物を倒して貯めればいいのよー」
ホッとして頭を上げると、
瞬く間に、人間の姿——
彼は、笑っていた。光を放つように。しかし
こうしてる間にも、残された寿命が目減りしていくのだ——。
「私の名は、【オルガ】と申します。では、私の前に立ってください」
「ではソアラ様。勇者の気持ちになって、お祈りください」
オルガの言葉を受け、
「この世界の全ての生命を司る神よ! この者に、新たな人生の祝福を!」
やがてその光は、青みを帯びた鎧、兜、剣、盾となり、
「すげー!! 勇者だ! 剣とか盾とか、使ってみたかったんだよな!」
立派な“勇者”となった
————
※ お読みいただき、ありがとうございます。
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【次週予告】
次週でSTAGE4、完結です。
次章からいよいよ、船旅が始まります!
☆本当の勇者の技を習得!
☆現実世界に帰っていた悠木と雪白に起きた事件、それは一体——?
☆優志、久々に病院へ。健康と向き合うために考えさせられた、大切なこととは——?
36.真の勇者の技
37.魔王恐るべし
38.その頃、猫戦士たちは
39.現実世界での再会
40.死生観
41.魔族として
どうぞ、お楽しみに!
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