33.チョコの傀儡


「あれ? 僕ちゃん、何してたんだビー!?」


 猫月ゴマによる謎の魔術により、10枚の板チョコは何と、倒したはずの魔王軍幹部【サクビー】に変化した。

 ただし、背の高さは15センチメートルほど。


「面白えだろ。コイツは、【チビサクビー】だ」


 チビサクビーはベンチの上をちょこちょこと歩き回りながら周りを見回すと、軋むような高い声を上げる。


「そうだ! 僕ちゃん、ソアラにリベンジするんだったビー! そこのデカいお前!」


 蒼天ソアラに、豆粒のような丸い手を向けるチビサクビー。


「ソアラを知らないビー!?」

「な……? オレがそのソアラだが……!」

「嘘をつくなビー! ソアラはもっとケモノみたいな姿だったビー!」


 蒼天ソアラは現在、人間の姿である。チビサクビーには、ソアラ本人(本猫?)だと判るはずもない。


 腕組みをして様子を見ていた猫月ゴマは小さく息をつくと、


「ビービーうるせえな、チビ」


 そう言ってヒョイとチビサクビーを片手で掴み上げた。


「うわあー! 何するビー! 助けてくれビー!!」

「サ、サクビーくん!」


 優志ミオンは助けようとするが、それよりも早くあんぐりと口を開けた猫月ゴマが、チビサクビーを口に放り込んだ。


「あぎゃビー!! グフッ……」


 バリバリと噛み砕かれ、猫月ゴマの口の中で最期のことばが発されると、チビサクビーはそのままゴクンと飲み込まれてしまった。


「サ……サクビー……!」


 蒼天ソアラが言葉を失う。


 猫月ゴマはおもむろに体を優志ミオンたちの方へ向けると、静かに口を開いた。


「この能力スキルは、サーシャから奪ったやつだ。ヤツの死に際に奪った飛行能力のついでに、オマケでついてきやがった」

「どういう……?」


 稲村リュカが眉をしかめる。


「サーシャの奴は、“チョコレートを操り人形に変える力”を持ってたってことだ。つまり、ボクらが戦った鎧野郎たちは……サーシャの傀儡かいらいだったってワケだ」


 言いながら、残り10枚のチョコレートをもう一度ベンチの上に広げる。


「ゴマくん、まさか……」


 優志ミオンはただ、猫月ゴマのやることを見ているしかできなかった。


「チョコレートよ! 我が傀儡くぐつとなれ! ……チビサクビー、もっかいでてきやがれ!」


 再び、15センチメートル大のチビサクビーが復活する。


「はあ、死ぬかと思ったビー! さあ、早くソアラを連れてくるビー!」


 復活するや否やビービー捲し立てるチビサクビーを、猫月ゴマは冷めた顔で見下ろしつつ、目を赤く光らせた。


「テメエ、ちったあ大人しくしやがれ」


 途端、チビサクビーは喚くのをやめ、その場に座り込む。本当に、猫月ゴマに操られているらしい。


「お前は非常食として役立ててやるよ、チビサクビー」

「誰がチビだビー! ……って、何でこんなに小っちゃくなってるビー!?」


 今頃気づくチビサクビー。ピョンピョンと飛び跳ねながらクリクリとした目を回す。

 猫月ゴマの目の色は、元に戻っていた。チビサクビーは完全に操られているわけではなく、自分の意思でも動き回っているように見える。


「ってか、チビサクビーってのも呼びにくいな。略すか。チクb」

「それ以上言うたらあかん!!」


 猫月ゴマ暁月スピカに尻を平手で叩かれ、スパーンと心地良い音が露天の並ぶ通りに響いた。猫月ゴマは「ぶげっ」と声を吐き出したのだった。


 ♢


 ひとまずモヤマの宿屋へ行き、一行はしばしゆっくりしてから出発することとなった。


 カバンの中で暴れるチビサクビーを隠しつつ、大部屋に入った一行。

 荷物を下ろしてから、優志ミオンはチビサクビーを出してやった。

 小さくなった上に猫月ゴマとはいえ、サクビーは魔王軍幹部。もし自分の意思でも動いているのならば、チビサクビーがまた悪さをしないか、優志ミオンは気がかりであった。


「ぷはー、やっと出られたビー! 狭い所は苦手だビー!」

「チビサクビーは、操り人形として完全に思いのままに動かせるって訳でもなさそうだな。気ぃ抜くと好き勝手動き回りやがるから」


 猫月ゴマは首を傾げている。


「ん? どういうことだビー?」


 チビサクビーも、まん丸い目をパチパチとさせている。


 やはり完全に猫月ゴマが操っているわけではないようだ。ということは、また悪さをするかもしれない——。

 優志ミオンは身構えつつ、猫月ゴマの話に耳を傾けた。


「チビサクビー、お前は元々、サーシャに作られた存在だったんだよ。お前と一緒にいたヴィットも、そうだ」

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