25.フシミ港


「【トライ・ミオン・フィニッシュ】です!!」


 ラデクは疾風の如き速さで剣を振るい、、“キラーキャンサー”のハサミを根本から切断。次いでサラーは“ウィザードスタッフ”から火炎魔法を放つ——優志ミオンの“獅子の剣”に向けて。

 燃え上がる“獅子の剣”を振り翳し、優志ミオンは“キラーキャンサー”へ突撃。炎の刃は硬い殻を高熱で溶かし、するりと貫通させた。

 “キラーキャンサー”は動きを止め、殻を崩壊させながら光へと変わり、昇天していった。


「や、やりました!」

「バッチリだね、勇者ミオン様!」

「私たちー、無敵だねー」


 これからは、いや——これからも、私は1人ではない。仲間と力を合わせ、道を切り拓いていくのだ。

 今回の戦いで優志ミオンは強く強く、そのことを実感した。


 消えていった魔物たちのいた場所には、10を超える宝箱が転がっていた。

 駆けつけ、早速中身を確認。数多くの金貨、銀貨が詰め込まれており、合計5万ゴールドほどゲットすることができた。


「ぐぞぅ……ボクが戦えたらあんな雑魚ども、一捻りだったってのによ……」


 ようやく調子を取り戻した猫月ゴマが、暁月スピカ蒼天ソアラに支えながら抑えられない心の声を口にした。


 時刻は午前9時40分を過ぎたところ。少し急ぎ足で、日射しが照りつける砂浜を西へ西へと向かう優志ミオン一行だった。



「見えました! あれが、フシミ港です!」

「おー! 大きな船じゃねえか!」


 砂浜が2メートルほどのコンクリートの壁で仕切られ、人1人分通れる隙間がある。その先は、大きな港——【フシミ港】だ。


 コンクリートの壁をくぐると、全長30メートルほどのガレオン船が一行の目に入る。黒い帆が畳まれ、穏やかな波の上で揺れながら佇んでいる。

 空の青と海の青を仕切る水平線の向こうに、どんな世界が待っているのだろう。太陽の光は水面みなもに反射し、導くように輝きを放っている。

 波はチャプチャプと、揺れていた。ウミネコの呑気な鳴き声が、勇者たちを歓迎する。


「あ、あの方は……。イングズさんです!」


 船のそばで大きく手を振る男、イングズ。

 黒い船長帽子は今日はかぶっておらず、長くカールした黒髪が艶やかに光っていた。青と白の縞模様の長袖シャツにジーンズという、カジュアルな姿。

 しかし、カールした黒い口髭と顎髭が、元海賊船長の威厳を感じさせる。


「待っていたぞ、勇者ミオン一行よ。ん? どうしたチャンピオン。体調でも悪いのか」


 二日酔いでフラフラの猫月チャンピオンは、相変わらず暁月スピカ蒼天ソアラに支えられ、項垂れている。

 優志ミオンはそっと猫月ゴマの肩を叩く。


「んにゃあ……そうだな……ボクがちゃんと挨拶しなきゃな……」


 猫月ゴマがふらつきながらイングズの前に立つと、イングズは「ワハハハ」と大笑いしてパイプを取り出し、口に咥えた。


「船の上は普段とは違う環境だ。体調はしっかり整えとけよ!」

「あの」


 優志ミオンが口を挟む。


「ん? 勇者様、何か質問か?」

「すみませんが……おタバコの煙が……苦手です……タバコは……肺がんの原因だけでなく……他にも色んな病気の原因になるし、そういう医学的根拠エビデンスもあるって、私の主治医が……」

「あ、ああ分かったすまない」

「お言葉ですがイングズさん、健康を語られるなら、まずご自身のご健康を……」

「ああそうだ、その通りだ! 分かった! だ、誰かこの勇者を止めてくれ!」


 タバコの煙は大嫌いな優志ミオンは、少々ご立腹だった……。


————


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【次週予告】


☆船出の前に、大切な仕事が残っていたことを思い出す優志ミオンたち。一行は、破壊された“生命の巨塔”へと向かう——。


☆みんなで力を合わせ、“生命の巨塔”を今度こそ完全修復させよう。その方法とは——?


☆「自分自身に、恋をするのだ。自分を大切に出来ぬものが、誰かを大切にできると思うか?」

 別行動していた天ノ河と癒月。悩める癒月の前に、謎めいた初老の男が現れる——。


21.次なる仕事

22.“生命の巨塔”復活作戦

23.賢者誕生

24.ピア・ブレイヴとピア・ヒーリングの正体

25.恋の病


どうぞ、お楽しみに!

 

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