23.砂浜の道へ


 カーテンから漏れる、朝の光。


 目を覚ました優志ミオンは、寝ぼけながら辺りを見回す。

 ホテルの一室だ。

 現実世界に戻されてはいない。

 隣のベッドでラデク、アルス王子がすやすやと寝ている。


 水筒の“生命の水”をくいっと飲み干し、ドアを開ける。座敷で稲村リュカ猫月ゴマ、が雑魚寝をしている。

 ほどなくして、玄関のドアの外で暁月スピカの「朝ごはん行くでー」との声が聞こえた。


 ♢


 朝食のバイキングを済ませると、荷物をまとめて部屋を出た。

 時刻は午前8時を少し回ったところ。

 チェックアウト待ちのため、ロビーに集合する。


「この後、船をもらうため、“フシミ港”へ向かいます。お金が無いので、道中、魔物を倒していきましょう」


 優志ミオンはボロボロに破けた地図を見せながら説明したのち、ハッとしてミランダを呼び、預けていた“獅子の装備”を出してもらうと、その場で身に着けた。


 ラデクたちも装備をミランダに預けていたらしく、追ってミランダに出してもらう。

 ラデクは“プラチナソード”、“プラチナシールド”、“シルバーメイル”、“プラチナヘッド”。

 サラーは“ウィザードスタッフ”、“プリンセスローブ”。

 稲村リュカは“ホーリーランス”、“聖者の法衣”。

 それぞれ、身につけた。


 フシミ港までは、ここウキョーからは西へ7キロメートルほど。徒歩だとおよそ1時間ほどだ。海岸に面した道を通る。


 サラーがチェックアウトを済ませロビーに戻ってくると、一行はホテルを出た。

 現実世界とほとんど変わらない、街の風景。現実世界との融合は、日に日に進んでいる。

 小春日和の並木道を、一行は進む。ちなみにオトヨーク島に四季はなく、常に温暖である。が、装備を身につけた優志ミオンは、すでに汗ばんでいた。


「ここから……海岸通りですね。階段を降りれば砂浜です」

「ちょっと寄り道してこうぜ!」


 ラデクが子供のような笑みを浮かべて提案する。

 時間には多少余裕がある。

 優志ミオンたちは、波の音が歌う砂浜へと駆け出した。


「海だぁー!」


 真っ先に駆けていくラデクの姿は、まだまだ幼い少年であった。


「海見たら、またビール飲みたくなってきたな」

「水着買っといたらよかったー」

「僕は砂でお城作って待ってるよ」


 稲村リュカ、サラー、アルス王子も楽しげである。

 猫人間組も遊んできてはどうかと、優志ミオンは声をかけようとしたが——。


「ゴマー、大丈夫かいなー」

「相棒、病み上がりのオレでさえこんなに元気なのに! しっかりしろ!」


 妙に大人しいと思ったら、猫月ゴマは二日酔いでフラフラだったのである。

 はしゃぐラデクたちをよそに、優志ミオン猫月ゴマの元へと戻る。


「ゴマくん……無理はしないでくださいね……」

「気持ちわりぃ……ちょっと休ませてくれ……」


 休ませたい気持ちは山々だが、集合時間は午前10時。多少遅刻してもイングズは待ってはくれると思うが、あまりのんびりもしていられない。

 優志ミオン猫月ゴマに、水筒に残っている“生命の水”を飲ませた。多少顔色が良くなり、ふらつきながらも歩けるようになったので、猫月ゴマのペースに合わせゆっくりと砂浜の道を歩いていくことにした。


 ——が、こんな時に限って出てくるのが、魔物という奴である。


「うわー!! でっかいカニだー!!」


 ラデクの悲鳴。優志ミオンたちが振り向くと、ダンプトラックほどの大きさのカニの魔物がハサミを構え、今にもラデクを襲おうとしていた。


 

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