22.お疲れ様会


 優志ミオンは眠気と空腹に耐えながら、仲間と共にゆっくりとホテルへと向かっていた。


「やっぱり僕らは帰るよ。あとは頑張って」

「困ったら呼びなさいよね」


 T字路に辿り着いた時、天ノ河と癒月は別の道へ進もうとする。こんな遅い時間に子供だけで大丈夫だろうか——そう思った矢先。


「ゴマ、また会いましょ」


 癒月が、突然猫月ゴマにくっつき、腕を組んだ。慌てた猫月ゴマは、思わず腕を引き抜く。


「何だテメエ、馴れ馴れしいにも程があるぞ!」

「……わよ。じゃね」


 自信ありげな顔をして、癒月は天ノ河と共に反対側の道の歩道へと向かう。


「いいのか? 未成年を夜道に放り出しちまって」


 稲村リュカの声に気付いた時には、天ノ河と癒月は既に、暗闇の路地へと姿を消していた。


「何なんやアイツ。ゴマは渡さへんで」


 不機嫌な暁月スピカの声。振り向くと、暁月スピカの肩を無言でぽんと叩く猫月ゴマの姿。

 天ノ河も癒月もいざとなったら“ピア・チェーレ”に変身出来るし、大丈夫かと無理やり思い直し、ベストカップルの後ろ姿と、その向こうに潤むウキョーの街明かりをボーッと眺める優志ミオンだった。


「何ボーッとしてんだ。もう少ししっかりしろよ、


 眠りに落ちそうなアルス王子の手を引く稲村リュカに声をかけられ、優志ミオンは再び夜の街を歩き出す。


 ♢


 ウキョー・プリンスホテルへ到着した優志ミオン一行。

 空腹と眠気に耐えながらロビーでしばらく待っていると、サラーがエスカレーターをゆっくりと下ってくる。


「サラー!」

「あらー、みんな無事で良かったわー」


 久しぶりに聞く、サラーの呑気な声。


「サラーさん、お腹が空きました……」

「じゃあそこのレストランに行きましょー」

「まあ、まず荷物を置いてからにしよーぜ!」


 サラーに案内され、エレベーターに乗って予約した部屋へ。人数が多いことを見積もって、302号室、303号室が予約されていた。とは言え、男部屋と女部屋に分けるとのことだったので、男が圧倒的に多い現在、また騒がしい夜になるに違いない、と小さくため息をつく優志ミオンであった。

 

 優志ミオンたちは部屋に荷物を置くと、またすぐにサラーと合流し、1階の洋食屋へと案内された。


 ♢


「かんぱーい! いただきまーす!」


 ひとまずお疲れ様、ということでみんなして盃を交わす。優志ミオンは久しぶりに飲むビールの味に、顔を歪めた。


「しばらく飲んでないうちに、お酒、無理になったかもしれません……」

「お前は元々弱いくせに、無理して飲んでたからだろうが。だから胆石なんかになるんだよ」


 そう言う稲村リュカは、もう3杯目。何でこの人は病気ひとつしないんだろうと思いながら、優志ミオンはオレンジジュースを頼み直す。


 猫月ゴマは人間になれたことをいいことに、当たり前のように酒をチャンポンで飲み、早くも出来上がってしまっていた。「ニャフウ……」と声を漏らしながら、テーブルに突っ伏してしまっている。猫月ゴマは酔うと逆に大人しくなるらしい。


 蒼天ソアラ暁月スピカは病み上がりということで、お酒は控えている。

 ラデクは未成年なので、美味しそうにワインを飲むサラーを羨ましげに見ている。

 アルス王子は意外にもお酒は強く、稲村リュカに負けず劣らずの勢いで飲んでいるのに、普段通りである。


 料理は、ステーキにハンバーグ、パスタにオムライス——それも絶品揃い。

 疲れた体に沁み渡る旨さだが、代金は大丈夫だろうか——それだけが優志ミオンは心配であった。


(また、適当に魔物を倒さなきゃいけませんね。その場でゴールドが入るので、ある意味現実世界よりは楽といえば楽ですが……)


 腹と心を満たし、大浴場で疲れた体も癒し、優志ミオンはようやく部屋のベッドで横になった。



「ミオン様、船のことだけどさ」


 騒ぐ男衆の声を、ドアで遮断したラデク。


「そうでした……。船はちゃんと受け取れるのでしょうか……?」

「大丈夫だよ。イングズと会う約束をしておいたんだ。翌日、朝10時に【フシミ港】に来てくれ、って」

「フシミ港……ですか。また地図を見ておきます。ありがとうございます」


 明日、いよいよ船が手に入る。

 新たな旅が始まるのだ。


 ————


『あ、あとね! 夢の世界で一晩寝て起きたら現実世界に戻ってた、みたいなことは多分もう無いと思うわ。これも夢と現実が1つになってきてるからなんだけど……。まあもし起きてから現実世界に戻ってたら、またあたしを呼んで。……まだ何が起こるか分からない。くれぐれも気をつけてね!』


 ————


 ミランダの言葉が脳裏によぎる。

 今、眠ることで現実世界に戻ることはないようだが、今後どうなるのかは分からない。

 もしかすると、夢の世界と現実世界を突然行き来出来なくなる、なんてこともあるかもしれない。

 不安だったが眠気には抗えず優志ミオンは眠りに落ちた。

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