21.ドタバタ復活劇


 ソアラくんは無事だろうか——?


 恐る恐る開いた診察室の扉。しかし優志ミオンの目に映ったのは、何とも奇怪な光景であった。


 乳白色の“生命の水”で、診察室は水浸しである。ベッドも、水が滴るほどびしょ濡れであった。

 すでに意識を取り戻し、起き上がって唖然としている猫の姿のソアラに、「おらー!これでもか!」と猫月ゴマは水筒の“生命の水”を頭からぶっかけている。


 必死に猫月ゴマを大人しくさせようとするラデクと、白衣姿の初老の獣医師。

 慌てふためいてニャーニャー鳴いている、猫の姿のスピカ。


 様々な感情が渦巻き、優志ミオンはその場で固まってしまった。


「あーもう!! ゴマ! やめーい!」

「ふぎゃっ!?」


 スピカは185センチメートルはある猫月ゴマの顔の所にまで跳び上がり、顔面に頭突きをかました。


 獣医師は「猫が喋った!?」と驚きの声を上げるや尻餅をつき、水溜まりで白衣を濡らす。

 スピカは怪しまれないため、普通の猫のフリをしていたのだろうか。


「あれ!? オレは……!? ……って、何だ、この状況は!?」


 びしょ濡れのソアラが周囲を見回しながら、ようやく口を開く。

 猫月ゴマは水筒を投げ捨てると、ソアラの頭を乱暴にわしゃわしゃっと撫でた。


「ソアラ! テメエよく無事だったな! 良かった、良かったぜ!」

「うわわ! 相棒、オレ……もうダメだと思ったんだが……! 助けてくれたのか!」


 ソアラは猫月ゴマの腕の中にぴょんと飛び乗り、頭をこすりつけた。

 獣医師は座り込んだまま、「猫って、喋るの……? これは……夢……?」とうわ言のように呟いている。


 優志ミオンは駆け寄った。


「ソアラくん、本当に良かったです! スピカさんも、もう元気そうですね。安心しました」

優志まさしィ! 心配かけちまったな! この水のおかげだか知らねえが、オレはもう大丈夫だ!」

「ウチもまだ多少しんどいけど、多分平気や。優志まさしさんたちも、ほんまお疲れさんやで」


 優志ミオンはスピカを、猫月ゴマはソアラを抱っこする。

 獣医師はようやく立ちあがり、冷静さを取り戻したようなので、2匹を彼の元へと運んだ。


「ゴマくんったらもう……」


 ラデクはため息をつきながら、モップで濡れた床を拭いている。



 改めて診察した結果、ソアラもスピカもしっかりと休養を取れば問題無いとのことなので、このまま退院することとなった。

 優志ミオンとラデクは、何度も獣医師に頭を下げ、診察室を後にした。


「そういえば、サラーさんはどこへ行かれたのでしょう……?」

「サラーは、先にホテルに行ってるよ。後でみんなで向かおう」


 ロビーから、後から来た稲村リュカたちの声が聞こえる。ずいぶんと待たせてしまった。

 変身を解いた悠木、雪白、天ノ河、癒月は疲れたのか、ソファで互いにもたれ合いながら眠りに落ちていた。アルスもくうくうと寝息を立てている。元気いっぱいなのは稲村リュカだけ。


「おう! ソアラもスピカも、無事だったようだな!」

いなちゃんリュカ、声でかいですよ……。さあ、みんなを起こしてお金払って、外に出ましょう」


 壁掛け時刻を見ると、21時を過ぎていた。優志ミオンは疲れ果て、気を抜くと今にも眠りに落ちてしまいそうであった。


 ♢


「ふわあ……まず、悠木さんと雪白さん……を帰さねばなりませんね……」


 優志ミオンは、以前ミランダが話していたことを思い出す。


 ————


『あのね、今はまだ夢の世界と現実世界の時間はズレてるけど、だんだん同じ時間の進み方になってきてるの。どんどん夢と現実が1つになろうとしてるからよ』


 ————


 現在、ここ“夢の世界”と現実世界は、時刻がシンクロしている可能性がある。中学生である悠木たちを、まずは早く帰さないといけない。


「あ、天ノ河さんと癒月さんも帰らないといけないですよね。お家はどこでしょう?」

「ぼ……僕らは自力で帰れるから、後でいいよ!」

「ほっといてちょうだい」


 何かを誤魔化すような態度の天ノ河、癒月。

 優志ミオンは首を傾げたが、まあいいかと切り替え、悠木、雪白を呼んで路地裏に入った。


 ミランダを呼ぶと、いつものように光に包まれながら現れる。


「ミランダさん、2人をお家に帰してあげてください」

「ねむいよぉ〜……。そういえば癒月ちゃんって子、友莉にちょっと雰囲気似てた! もっと仲良くなりたいなー……」

「私は何か苦手、あの子。それより早く帰って課題やらなきゃ」


 ワープゲートに悠木、雪白が消えていくのを見届けると、引き続き優志ミオンはミランダにもう1件依頼する。


「これからホテルに向かうんですが、ソアラくん、スピカさんをまた人間にしてあげてもらえますか?」

「分かったわ。ほんと、今回はお疲れ様ね! あたしも含めて、みんな無事で良かったわ!」


 ソアラを再び“蒼天あおぞらソアラ”に、スピカを“暁月あかつきスピカ”へと姿を変えたのを確かめ、ミランダは光となって消えた。


 今いるメンバーは……。

 初期からの勇者パーティー——飛田優志勇者ミオン稲村誠司僧侶リュカ、ラデク。

 人間となった猫たち——猫月ねこつきごま、暁月あかつきスピカ、蒼天あおぞらソアラ。

 美少女魔法戦士“ピア・チェーレ”——天ノ河あまのがわ勇美いさみ癒月ゆづき星愛ティア

 そして、アルス王子。


 みんなして、サラーの待つホテルへと向かった。

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