20.喪いたくない


 ワープゲートから出てきた場所は、ウキョー競技場のすぐ近くの大通りだった。

 現実世界と同じように、車が行き交う。オフィスビルの明かりが、まだ煌々と灯っている。

 電光掲示板の時計は、午後8時を示していた。


「ミランダさん、“獅子の装備”をまた私の部屋に放り込んでおいてもらえますか? 重いので……」

「また!? 分かったわ!」


 優志ミオンは急ぎ装備を脱ぐと、ミランダが出現させ直したワープゲートの中へと乱雑に放り込む。

 中に着ている服は、ぐっしょりと濡れていた。軽く絞ってから、緑色の水筒の入ったバッグを背負い直す。


「まだラデクくんたちは、競技場にいるでしょうか……?」

「待て、優志まさし


 猫月ゴマは、急ぎポケットから“ニャイフォン15フィフティーン”を取り出すと、誰かと連絡を取り始める。

 その間に、遅れて稲村リュカ、アルス王子、悠木ラヴィング雪白フレンズ天ノ河ブレイヴ癒月ヒーリングがワープゲートから出てくる。


「……ああ。無事か。なら良かった。で、今どこなんだ。……そうか。“生命の水”ってのを持って、すぐ行く」

「ゴマくん、誰と話してたんですか?」

「スピカだ。ソアラはまだ意識失くしてるとか言いやがる。“ウキョー動物病院”ってとこに、みんないるってよ。急ぐぞ!」


 猫月ゴマは夜の街を駆け出した。背が高いので、とても目立つ。しかし、彼は“ウキョー動物病院”の場所が分かっているのだろうか。

 周りを見渡した優志ミオンは幸運にも、白地に緑色の文字で“ウキョー動物病院”と書かれた、中で蛍光灯が灯る看板を目にする。やや離れた場所ではあるが、走って行ける距離である。

 しかし、猫月ゴマが走って行ったのは、真反対の方向。


「ゴマくん……! そっちじゃないです……!」

「何だと!? そういうことは早く言え!!」


 優志ミオンは引き返してきた猫月ゴマと共に、“ウキョー動物病院”へと急いだ。


「あの動物病院へ行くつもりだ! 追うぞ!」


 後から、稲村リュカたちも追いついてくる。


 “ウキョー動物病院”まで、あと百数メートルほど。

 一刻も早く、ソアラくんに“生命の水”を与えなければならない。だがこういう時に限って、通行人が横に広がって歩いていたり、信号に引っかかったりする——。


 少しずつ“ウキョー動物病院”の看板が近づく。それに比例して、心臓の鼓動も速くなっていく。

 間に合いますように——!


 “ウキョー動物病院”のある小さなビルのロビーに到着、エレベーターに乗り込む優志ミオン猫月ゴマ

 全員の到着を待たずドアを閉じ、4階へ。優志ミオンたちの意図など我関せずというように、ゆっくりと昇るエレベーター。


 ドアが開くや否や、猫月ゴマは鉄砲玉のように“ウキョー動物病院”の受付を、靴も脱がずに突っ切っていく。


「あわわ……ゴマくん!」


 優志ミオンは慌てて受付の女性に頭を下げ、「ソアラくん……はいますか?」と息を切らしながら尋ねた。


「ソアラちゃんですね! こちらへ!」


 受付の女性から笑顔が消えたので、優志ミオンはソアラが現在どんな状態かを察した。



 診察室へと案内され、ドアを恐る恐る開く。

 そこで目に入った光景に、優志ミオンは思わずバッグを床に落としてしまった。



————


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【次週予告】


☆ソアラは無事なのか、それとも——。


☆いよいよ船をもらいに、一行はフシミ港へ向かう——。


21.ドタバタ復活劇

22.お疲れ様会

23.砂浜の道へ

24.新・合体技、炸裂!

25.フシミ港にて


どうぞ、お楽しみに!

 

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