19.急げ!!


 万歳、万歳と歓声を上げる人々の合間をぬって、天ノ河ピア・ブレイヴが山頂へと向かっていくのが見えた。その後ろを猫月ゴマが追う。


「そうです、こうしてはいられません。“生命の水”を持ち帰り、ソアラくんを助けなければ……」

「そうだな!」


 優志ミオン稲村リュカも、再び山頂へと向かった。

 夜の闇の中、降り注ぐ“生命の雨”が心地よく肌を潤す。


「ロウ!」

「ガウー!」


 “生命の水”が周囲に激しく噴射する山頂の岩の近くで、天ノ河ブレイヴのサポーター——ロウは、大きな口から5つの水筒を出していた。赤、橙、黄、緑、青の、1リットルサイズの水筒。


 悠木ラヴィング雪白フレンズ癒月ヒーリング、そしてアルス王子も、びしょ濡れになりながら山頂へ到着。


「みんな、水筒にたっぷり水を汲もう!」


 天ノ河ブレイヴに言われた通り、優志ミオンは緑色の水筒に、“生命の水”を汲み入れる。

 “生命の水”は、突起状の岩の上部から激しく噴き上がっているのだが、溢れた水が岩肌に滝の如く流れ落ちているので、汲むのは簡単である。

 ただ、巨大スプレーのように岩の周りにも噴射されているので、当然ながら全身びしょ濡れだ。それがとても心地良くもあるのだが。


「これで、この先もみんな元気いっぱいですね!」

「“生命の水”が優秀すぎて、俺の出番がなくなったりしてな! ガハハ!」


 稲村リュカと笑い合いながら水を汲んでいる側で、猫月ゴマもずぶ濡れになりながら赤い水筒を構えている。


「ソアラ、待ってろ。たっぷりコイツを浴びせてやるからな……!」

「ゴマくん、汲めましたか? すぐにミランダさんを呼んで、街に帰りましょう」

「ああ」


 優志ミオンは心を込めて念ずると、乳白色の霧の中に見慣れた光が現れる。

 光を、虹色のリングが包む。そこからミランダが姿を現した。


「きゃあっ! 冷たっ! こんな所に呼ぶのなら、前もって言ってよ!」

「す……すみません。でもどうやって前もって言えばいいのでしょう……」

「んなこと言ってる場合か優志まさし! おいミランダ、早く街にワープゲート繋げてくれ!」

「街ってどこの街よ!?」


 猫月ゴマが唸りながら頭を抱え始めた。街の名前が思い出せないらしい。代わりに優志ミオンが答えようとするも——。


「わ……私も、街の名前が出てきません!」

「じゃあどうしようもないわよ! あたしもこの世界のことはよく知らないんだからね!」

「あわわ……急いでるのに……」


 その時。

 稲村リュカのバカっぽい大声が耳に入る。


「ウキョーーッ! やっぱり酒よりも“生命の水”だぜー! 美味えー!」


 電球がピカーッと、優志ミオンの頭の中で輝きを放った。


「ウキョーです! ウキョーの街です!」

「分かったわ! それっ!」


 大きな水溜まりと化した山頂の地面に、7色に輝く円形のワープゾーンが開かれた。上に、小さな虹が架かる。


「急ぐぜ!」

「はい! ……皆さん、水は汲めましたか? 一緒に帰りましょう!」


 優志ミオンの後を追って、稲村リュカ悠木ラヴィング雪白フレンズ天ノ河ブレイヴ癒月ヒーリング、そしてアルス王子も、ワープゲートの中へと消えていった。

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