18.双子山、巨大化


 ぷるんぷるんと揺れる不安定な地面。何度も弾き飛ばされそうになるが、負けずにひたすら山肌をモミモミする。

 土とは思えないぐらい、柔らかな手触り。人肌ほどの温かみがあり、揉むとゴム風船のようにボヨヨンと揺れる。

 楽しくなり、優志ミオンは子供が夢中で遊ぶかようにひたすら山肌を揉みしだいていた。


「ゴマ、一緒にやるわよ」

「またお前か! 馴れ馴れしいんだよ!」


 猫月ゴマはどういうわけか、癒月ヒーリングに付き纏われている。

 猫月ゴマが揉むと、山ごと破壊しかねないので心配だなと思いつつ、じゃれ合う猫月ゴマ癒月ヒーリングをちらと見る。

 その時、ふと優志ミオンの視界に入ったのは、以前より遥かに小さくなった街明かりの夜景だった。


いなちゃんリュカ……、山が……どんどん大きくなっていってる気がしませんか……?」

「本当だな。何が起きてるってんだ?」


 その時、突然しとしとと雨が降り始め、途端に本降りになった。

 いや、違う。

 ほのかな心地いいミルクのような香りのする——“生命の水”による雨だ。


「おーい! “生命の水”が勢いよく噴き出したぞ!」


 山頂から、街の人の声が聞こえてきた。

 急ぎ、ぷにぷにの地面を踏みしめながら山頂の方へ向かった。


「す、すごいです……!」


 山頂の岩は、“生命の水”を空高く噴き上げていた。その勢いは、消防車のポンプの比ではないほど。

 突起状の岩全体から、100メートル以上はあるであろう高さまで、乳白色の恵みの水が噴き上げられている。

 飛び散る水飛沫で、岩の周囲は白く霞んでいる。


「やったぞー!!」

「これで、みんなの健康が取り戻せる! ばんざーい、ばんざーい!」


 白い雨に濡れる人々の、喜びに満ちた声。


 赤き十六夜の月光によってルビー色に照らされ、美しい輝きを放ちながら、“生命の水”は降り注ぐ。

 向こうに見えるヒエイ山の方に目をやると、ヒエイ山の頂からも、同じように乳白色の水が空高く噴き上がっているのが微かに見える。


 夢の世界ならではの幻想的な光景に見惚れていると、突然「メリメリバキバキ」という、その場面に似つかわしくない雑音がこだました。

 人々の悲鳴が上がる。

 アタゴ山、ヒエイ山の間にある峡谷の方からである。


「な、何が起きたんだ!」

「行ってみましょう!」


 優志ミオン稲村リュカはポヨンポヨンの地面の上を飛び跳ねながら、転がり落ちないように気をつけつつ、峡谷の見える場所へと移動した。


「……あらら、谷がくっついちゃいましたね」

「サーシャの奴、可哀想に。谷間に潰されて、もうペシャンコだな。ガッハッハ!」


 双子山が互いに巨大化したため、左右の断崖——ぷるんぷるんになった——が迫り、くっつく形となったようである。

 そこに挟まっていたバナナ形飛行物体と、さくらんぼ形飛行物体ジャイアント・ディックは、サーシャともども、ぷるんぷるんの谷間に押し潰されてしまったのだ。


 魔王軍の作戦は、またしても瓦解したのであった。


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