16.山肌モミモミ


 顔を歪める猫月ゴマ

 そうだ、意識を失ったままのソアラくんは無事だろうか——。

 優志ミオンは再び、緩んだ気持ちを引き締める。


「す……すみません。一刻も早く“生命の水”を取り返しに行かないといけませんね」

「急いであのバナナぶっ壊して、“生命の水”を取り返すぞ! “生命の水”をたっぷりとアイツの頭からブッかけりゃあ、目ぇ覚ますだろ!」


 優志ミオン猫月ゴマと共に、潰れた“ジャイアント・ディック”の方へと向かった。

 が、その時——。


「うわああ! また地震です!」


 再び、大きく地面が揺さぶられる。

 猫月ゴマが引き起こした先程の地殻変動の時よりも、大きく激しい揺れだ。


「ゴマくん! また何かやったんですか!?」

「ん? ボク何もしてねえぞ?」

 

 鉄の板がへし折れるようなメキメキという音と、大雨の後の激流のような音が同時に、谷間から聞こえてくる。


「うわあー! 優志ミオン! どこだー!」

愛音ラヴィングも王子様も、無事でいてよ……!」

「くっ! 何て揺れだよ! みんなしっかりどこかに掴まれ!」

「ゴマのせいじゃないって聞こえたけど、だったら何なのよ! 普通の地震の揺れじゃないわよ、これ!」


 稲村リュカ雪白フレンズ天ノ河ブレイヴ癒月ヒーリングも揺れに耐えながら、必死で岩場や樹木にしがみついている。


 優志ミオン猫月ゴマは谷間の見える崖へと到着。揺れが続いているので、転落しないよう谷間に目をやる。

 そこで見たものは——潰れた“ジャイアントディック”から溢れた“生命の水”が、いくつもの滝となって谷間へ流れ落ちている光景だった。


「ああ、“生命の水”が!」


 黄色い機体から乳白色の水が勢いよく噴き出し、天の川のような輝きを放ちながら、谷間に飲み込まれていく——。


「まるで、バナナミルクですね……」

「んな事言ってる場合か! このままじゃ全部流れ出ちまう! 何とか出来ねえのか!?」

「そうだ! ミランダさんを呼びましょつ! 巨大なワープゲートを、流れ落ちる“生命の水”の下に作ってもらって……って、うわああーー!!」

「うわわわ! 何だコレは!?」


 突如、優志ミオン猫月ゴマの足が、地面にズブズブと沈み込んだ。

 思わず足を上げようとすると、沈んだ反動で優志ミオンの体は宙に舞う。2メートルほどの高さにまで、跳ね上げられてしまった。


「うわああ!」

優志まさし!」


 腰から地面に落下。痛みに目を瞑る——つもりが、全然痛くない。

 ぷるん、とした感触を、腰に感じた。

 再び、体が50センチメートルほど跳び上がる。


「な、何が起きてるんですか……?」

「何か、地面がぷるんぷるんになっちまってるようだな。山全部がトランポリンみてえになってやがる。見ろよ」


 山の方を見ると、木々が大きく揺れていた。超巨大なゼリーの如くぷるんぷるんになった山肌に、揺さぶられているようだ。

 崖の向こうのヒエイ山も、稜線がゆっくり、大きく揺らいでいる。


「何だこれ!?」

「ぷにぷにしてる……変な感じ……!」


 森の中にいた稲村リュカ雪白フレンズたちも、突如発生した異変に戸惑っていた。


 こうしている間にも、“生命の水”はどんどん失われてしまう——。

 頭の中を整理できず、どうしようかと顔を歪ませていた時、遠くから人々の掛け声が近づいてきた。


「わっせ! わっせ!」

「揉め揉めー! 揉みしだけー!」


 老若男女入り混じった、威勢の良いその声を聞き、少し落ち着きを取り戻す。


「街の人たちでしょうか?」

「おー、何かいっぱい来やがったな。一体何してやがんだ?」


 歩き慣れないプルプルの地面を踏みしめ、崖から山の方へと移動した優志ミオン猫月ゴマ

 目に入ったのは——大人も老人も子供もみんなこぞってアタゴ山の山肌を、這いつくばりながら両腕で一生懸命に揉みしだいているという、謎めいた光景であった。


「飛田さーん! 生命のお水、出たよー!!」


 山頂の方から、悠木ラヴィングの声が聞こえた。

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