9.衝撃告白


「みんな、大丈夫か? 俺が回復してやるから、そこに並べ!」


 サーシャが谷底に消えたのを確かめた稲村リュカに、優志ミオンたちは呼びかけられる。


リュカいなちゃん、ありがとうございます。あの変なガスも止まりましたし、バッチリ回復すれば完璧ですね」

「ああ。あとは今俺たちがいるバナナとさくらんぼの形した変な船と、毒ガスを吐いてきたさえぶっ壊せば、完全勝利だな!」

「いや……あれは桃だと思うんですけど……」


 優志ミオンたちが話し込んでいるうちに、ピア・チェーレの面々——悠木ラヴィング雪白フレンズ天ノ河ブレイヴが、稲村リュカの前で横一列に並ぶ。

 癒月ヒーリングを除いて。


「私は平気、自分で癒せるから。魔力を無駄にしたくないし、リュカがみんなの分を癒してくれるのは助かるわね」


 癒月ヒーリングは1人、腕組みしながらそっぽを向いている。彼女のサポーター——クマーンは、近くで呑気にハチミツ飴をむさぼっていた。


「“スーパー・ヒール”!」


 光に包まれた稲村リュカは、癒しの波動を1人1人に放ち始める。

 傷や疲れがたちどころに回復し、全員すっかり元気を取り戻した。


「ありがとうございます。思ったんですが、癒しの魔法は……死んだ人を生き返らせたりもできるんですか? ほら、国民的有名RPGでは、魔法1つで死んだ仲間を蘇らせたりするじゃないですか」


 優志ミオン稲村リュカに質問をぶつけたが、稲村リュカは首を横に振る。

 その時の表情は、普段の酔っぱらい親父の彼らしからぬ、キリッとしたものだった。


「いくら俺でも、蘇生は出来ない。出来たとしても、それは生命に対する冒涜だ」

「それは私も一緒だし同意見。死んだらそれまでよ」


 癒月ヒーリングも横から口を挟んだ。


 優志ミオンは何も言えなくなってしまった。

 心のどこかで期待していたのだ、稲村リュカや癒月の存在に。例え誰かが死んだとしても、稲村リュカや癒月なら生き返らせられるのではないか。起こり得る悲劇は、彼らさえいれば避けられるのではないか、と。


 悠木ラヴィング雪白フレンズは「何言ってんだろう?」と言いたげな顔をしていた。天ノ河ブレイヴは1人、ずっと俯いている。


 その時——。


「あれ……? 僕、何してたんだ……?」


 アルス王子が、目覚めた——!

 が、相変わらず、である。


「アルスさん!」

「アルスくん!? アルスくーん!!」


 悠木ラヴィングが駆けつけようとしたが——。


「アルス様に、触らないでくださいまし!!」

「きゃあああっ」


 暗闇に響き渡るサーシャの声とともに、稲妻のような閃光が迸る!


「悠木さんっ!」


 間一髪で閃光を避けた悠木ラヴィング。甲板に膝をつく。


「それで勝ったと思っているだなんて、まあ何ともご立派な頭脳をお持ちですこと」


 サーシャは桃色のオーラに包まれながら、暗闇の谷間から飛来。

 やはり、そう簡単に倒せる相手ではなかった——。

 彼女は軽やかに、“ジャイアント・ディック”の甲板に舞い降りた。


 その時、アルス王子が漏らした声が、全員の耳に入る。


「うわあ! 綺麗な……女の人!」


 一斉に振り向くピア・チェーレの面々。


 サーシャの姿をまじまじと見つめるアルス王子の目は——完全に、ハート形になってしまっていた。


「アルスさん、しっかりしてください!」

「おいおいアルス、あれは人じゃねえ! 魔族だ!」


 優志ミオン稲村リュカは駆けつけ、アルス王子に声を掛けた。

 が、彼はさらに信じられぬ一言を放つ。


「えへ、サーシャちゃん……。好き……かも」


 「ええー!?」と声をあげ尻餅をつく優志ミオン稲村リュカのそばで、悠木ラヴィングはアルス王子の放った言葉を反芻し始めた。


「え……アルスくん……? アルスくん……が……? サーシャちゃんを……好き……?」


 悠木ラヴィングの目が、だんだんと虚ろになってゆく——。


 

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