13.究極魔法“パフェ”


「遅いぞ優志ミオン! サーシャが目を覚ましやがったぞ……!」


 “獅子の装備”を装着し、再び光の中から姿を現した優志ミオンの耳に、稲村リュカの声が届く。


 サーシャは潰れたベリーのような血液を滴らせながらも、フラフラと宙を舞っている。

 完全に復活する気配は、まだない。トドメを刺すなら、今のうちである。


「行ってこい、優志ミオン!」


 稲村リュカ優志ミオンに向け、何やら妙なイントネーションの言葉で詠唱を始めた。

 優志ミオンは、全身に力が漲るのを自覚する。稲村リュカ優志ミオンに施したのは、攻撃力、素早さを強化する魔法であった。


リュカいなちゃん、ありがとうございます!」


 優志ミオンは、獅子の剣をサーシャに向けた。


「サーシャさん! あなたの企み、止めさせてもらいます!」

「はあ、はあ……。病気の割には元気ですわねえ。勇者さん」


 優志ミオンの背後に、輝きを帯びた靄が集まってくる。次第にそれは唐獅子からじしの姿へと変化した。

 獅子の装備が辺りを翠色に照らすと、破裂音がこだまする。

 優志ミオンはエメラルドグリーンの流星と化し、サーシャへと突撃していく——。


「“獅子奮迅フューリアス・クラッシュ”!」


 流星はサーシャを直撃——したかと思いきや、今までふらついていたのが嘘であるかのように、サーシャは鮮やかに空中で弧を描く。

 あっさりと、“ 獅子奮迅フューリアス・クラッシュ”をかわしたのだった。


「あ、あわわわわ!!」


 優志ミオンを包んでいた光が消え、失速。このままだと底の見えぬ暗闇の谷へ真っ逆さまだ——。


「飛田さんっ!!」


 悠木ラヴィングの声。

 甲板をダンと蹴る音がした数秒後。誰かに、細い両腕で抱えられたのを自覚する。

 何と、悠木ラヴィングが両腕でキャッチしてくれたのだ。彼女は変身していると腕力も数倍に増加するので、優志ミオンも楽々と抱えることができるらしい。

 悠木ラヴィングはそのまま体を捻り、落下する方向を強引に崖の方向へと変えたようだ。


「“愛のメガトンキィーック”!!」


 悠木ラヴィングは崖を渾身の力で蹴り、その反動で大きくジャンプ。“ジャイアント・ディック”の甲板が迫る。

 スタン、と軽快な着地音が耳に入ると、優志ミオンは無事、甲板に帰還したことに気付く。


「す……すみません、悠木ゆうきさん」

「だぁーいじょうぶ! 飛田さん、意外と軽かったから!」

 

 稲村リュカ雪白フレンズ天ノ河ブレイヴも、固唾を呑んで優志ミオン悠木ラヴィングを見守っていた。無事戻ってきたのを見て、3人ともその場にへたり込む。

 猫月ゴマは、いつの間にか姿を消していた。


 優志ミオン悠木ラヴィングも、甲板に座り込みホッと一息をつく。

 だが、安心するのはまだ早い——。


「オホホホホ……。そんな捻りのない作戦でワタクシを倒そうだなんて。揃いも揃って素敵な頭脳をお持ちですこと」


 サーシャの持つ“ロリータ・ホワイトステッキ”が、白く光り始めた。

 この光に、——一瞬、そう思う優志ミオン


 その後サーシャの口から、意表を突く技の名が飛び出す。


「“サンデー”」


 優志勇者ミオンが使うはずの技が、サーシャの“ロリータ・ホワイトステッキ”から放たれた。

 鮮やかな閃光を伴った勇者の魔法が、勇者自身優志に迫る——!


「うわああああ!!」

優志ミオン……!」

「飛田さんっ!!」


 獅子の盾でどうにか防いだ優志ミオンだが、今度はさらに巨大な光の塊を、サーシャは“ロリータ・ホワイトステッキ”の先に蓄えていた。


「【パフェ】」


 サーシャ自身を飲み込まんとするほどの、巨大な光の玉が放たれた。

 “ジャイアント・ディック”の船幅よりも直径が大きな白い光の塊が、隕石の如く優志ミオンたちの上から降って来ようとしている。

 

「なぜ、サーシャさんが勇者の技を……!?」

優志ミオン! 伏せろ! 俺がバリアを張る!!」

「私もやる。ここで負けるわけにはいかない」


 稲村リュカ癒月ヒーリングの力によって、迫り来る光の玉“パフェ”と同程度の大きさの、魔法のドームが張られた。


 “パフェ”と魔法のドームは、互いに拮抗。限界に達し、両者は甲高い破裂音をこだまさせながら弾け飛ぶ——。


 反動で、ドーム内にいた優志ミオンたちは塵の如く吹き飛ばされ、甲板に叩きつけられた。幸いにして、谷に転落した者はいなかった。


 優志ミオンは這いつくばりながら独りごちる。


「く……“パフェ”は確か……」


 ————————


「勇者ミオン様は、最強の魔法、“パフェ”を使うと預言されています。今の魔法、“ドルチェ”をしっかりと鍛え上げパワーアップすると、“パフェ”を使えるようになる……と言い伝えられております。……勇者ミオン様、期待しておりますぞ!」


 ————————


「……マーカスさんが、確かにそう言ってまし……た。なぜ……サーシャさんが……」


 高く昇った十六夜いざよいの月は、ただただ無情に、ルビー色の輝きを放っていた。

 

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