12.優志、戦線離脱?


 桃形飛行物体を谷底に蹴落として破壊した猫月ゴマを、サーシャは憎むような目で睨みつけていた。


 “ジャイアント・ディックバナナ形飛行物体|”に着地した猫月ゴマ

 そこに、癒月ピア・ヒーリングが駆けつける。


「やっと来たわね。遅いのよ、ゴマ」

にゃんだよ、馴れ馴れしいな。誰だよテメエは」

「ゴマ、見てなさい。戦えるようになったんだから」


 にも拘らず話を全く聞かない癒月ヒーリングに、少し顔を歪める猫月ゴマ

 癒月ヒーリングは、宙に浮かぶサーシャの前に躍り出ると、両手を握りしめ力を込める。

 黄金色の光が癒月ヒーリングの両拳に集まっていき、次第に輝きを増す——。その様は、天に輝く星々が、まるで彼女の両拳に吸い寄せられるかのようであった。


「私は癒すだけが仕事じゃないの。……“ゴッデス・ブロウ”」


 屈んだ後、流星のごとくサーシャに向かい飛び出す癒月ヒーリング。そして光に包まれた右拳を前に突き出し、サーシャの頬に一撃。続いて左拳をサーシャの腹部にヒットさせた。


「くぅっ……何て速さなのですか……!」


 顔を歪めるサーシャに、隙ができる。

 次に動いたのは、悠木ラヴィング雪白フレンズ


「落ち込むのは後でも出来る……! 今がチャンス! 行くわよ、フレンズ!」

「……分かった。やろう、ラヴィング」

「「シャイニングメトロノーム!」」


 悠木ラヴィング雪白フレンズは右腕を天に掲げる。するとピンク色に輝く、振り子式のメトロノームが出現。

 メトロノームがカチカチとリズムを刻み、それに合わせて踊るように、桃色と水色のエネルギー球が次々と発生。

 球体たちが悠木ラヴィング雪白フレンズを包み込むと、2人は眩く輝きを放つ——。


「聖なるエネルギー、満タンだみゅー!」

「ぶっ放すぴの! どっかーーーーん!!」


 ミューズは悠木ラヴィングの肩に、ピノは雪白フレンズの肩に飛び乗った。

 悠木ラヴィング雪白フレンズはお互いに向かい合い、ラヴィングは右手、フレンズは左手を前に翳しながら叫ぶ。


「「輝け! 愛と友情の力! “フラタニティ・フラッシュ”!」」


 悠木ラヴィング雪白フレンズ、ミューズ、ピノを包み込んでいた光は巨大な波動弾と化し、夜の闇を照らしながらサーシャへと迫る——。


「“六芒星ヘキサグラム昇天斬ライジング”!!」


 さらに天ノ河ピア・ブレイヴが、“フラタニティ・フラッシュ”を避けようとしたサーシャの真横から彗星の如く迫り、剣でサーシャの腹部を斬りつけた。


 血液が噴き出す。


 失速し、ジャイアント・ディックの甲板へと落下していくサーシャ。


「……あああああああああッッ!!」


 “フラタニティ・フラッシュ”は落下するサーシャに向け進路を変え、そのまま直撃。

 周囲に何も見えなくなるほどの、太陽の如き輝き。大気が震え、衝撃音がこだまし、甲板が激しく揺さぶられる。


 光が消えると——甲板の上で力なく大の字になって、気を失っているサーシャの姿があった。目を瞑り、口や背部、腹部からは紫色の血液が流れ出ている。

 犬に変えられたアルス王子は、くぅーんとか細い声を上げていた。


「す、凄いです。“ピア・チェーレ”……」

「おい優志ミオン! さっきから、何をボーッと見てるんだ! 早くサーシャにトドメをさせ!」

「そ……そうですね! ちょっと待っててください!」

「待ってて下さいって、そんな暇ねえっての! おい、何をする気だ!?」


 稲村リュカに促されるも、優志ミオンは踵を返し、サーシャと距離を取る。


「ミランダさん、私の部屋に繋げて下さい!」

優志まさしくん、こんな時に何で……?」


 光の中から現れたミランダは、困惑しながら慌ただしく飛び回る。


「私の部屋に……【獅子の装備】をワープさせてくれましたよね。それを取りに行きます! 装備して、すぐ戻りますから!」

「だったら、その装備をすぐワープさせてあげるから、ここで着替えたら?」

「いえ……。ちょっと、私の部屋の空気が吸いたいです……気持ちを落ち着けて、いつもの自分に戻りたい……」


 そんな暇ないのに——。

 話を聞いていた稲村リュカはそう言う代わりに、ダンと甲板を蹴る。猫月ゴマも「おい、どこ行くんだ!」と言いながら優志ミオンに掴みかかろうとする。

 が、優志ミオンは振り向くことなく、ワープゲートへと消えていってしまった。


 ♢


 しんとした、優志まさしの自室。


 床に丁寧に置かれた、【獅子の剣】、【獅子の鎧】、【獅子の兜】、【獅子の盾】。


 外から聴こえる、小鳥の鳴き声。車のエンジンの音。近所のおばさんの話し声。


 優志まさしは現在の装備を脱ぎ、深呼吸を1つ。フンッと息を吐いてから、床に置かれた“獅子の装備”を、1つずつ身につけていく。

 ワープゲートは音もなく、虹色の輝きを放っている。


 全てを装着し終えた優志まさしは拳を握り締め、再びワープゲートに足を踏み入れた。


 

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