11.猫月ごま、復活


「キャンキャン! キャウゥゥン……」


 子供の芝犬に変えられてしまったアルス王子は、短い尻尾を下げながらてくてくとサーシャの方へ歩み寄る。


「オホホホ、いい子ですわね……」

「クゥーン……」


 サーシャにひととおり頭を撫でられたアルスワンコ王子は、もっと撫でろと言わんばかりに前脚でサーシャの脚にしがみつく。


「このままではいけません。サーシャさんを必ず倒し、アルスさんを助けます! ……ミランダさん!」


 優志はサーシャから一旦離れ、ミランダを呼び出した。

 光の中から現れたミランダは、優雅に飛び回ってから優志の肩に止まる。

 すっかり元気を取り戻していた彼女を見て安心した優志は、早速ミランダに注文をつける。


「ミランダさん! 現実世界の、私の部屋に繋いでください! “獅子の装備”を取りに行きます!」

「うん! すぐにワープゲートを繋げるわ!」


 甲板の上にワープゲートが出現し、優志は飛び込もうとした。

 ……が、その時、空の方から怒号のような砲撃音が鳴り響く。


「ふん、無駄ですわ、勇者ミオンさん!」


 丸い黒色の砲弾が3発、優志ミオンに向かい飛来する——。

 桃形飛行物体の中央を走る割れ目の真ん中から顔を出した砲台が、優志に向けられていた。


「え? うわあーー!?」

「きゃあっ!」


 避けるすべもなく、直撃——。


 したかと思いきや、至近距離で3回の爆発音。

 直撃は免れたものの、吹き付ける爆風で優志ミオンとミランダは吹き飛ばされる。


「ぐあ……! ミ、ミランダさん、大丈夫ですか……?」

「あたしは平気……誰かが弾を止めてくれたみたいね……?」


 砲弾を3発とも、迎撃してくれた何者かがいる。

 その者が、啖呵を切った。


「やいやい! よくもボクのを半殺しにしてくれたな! サーシャとやら……テメエを倒して、ソアラ相棒を救うんだ!」


 紫色に輝く鎧、盾を身につけ、魔剣を構える小さき


暁闇のぎょうあん勇者、ゴマ! どーだ。気合いでここまで走ってきたぜ……」


 優志ミオンは、ゴマの化け物のような体力に驚きつつ駆け寄る。


「ゴマくん! 本当に走ってここまで来たんですか……!? ミランダさんを呼べば良かったのに……」


 サーシャはアルスワンコ王子に構うのをやめ、再び空中を浮遊し始める。


「チッ……まだ増えるのですか……。賑やかでよろしいですこと……」


 宙に浮かびながら、ゴマを警戒するサーシャ。ゴマの強さは、彼女もよく知っている。下手に手出しをせず、様子を伺っているのだろう。

 その隙にゴマは、ミランダの元へと走った。


「ミランダ、ボクをもう一度人間にしてくれ。猫の姿よりも動きやすいからな」

「わかったわ!」


 ミランダの魔法により、暁闇の勇者ゴマは再び人間の姿——“猫月ねこつきごま”となる。

 五角形の盾、黒色の頑丈な鎧、そして1mを超える刀身を持つ魔剣ニャインライヴを装備した、身長186cmのイケメン勇者——再来。


 猫月ゴマは瞬時に数十メートルの高さまで跳び上がると、桃形飛行物体の真上に着地。


「ゴマくん、何をする気なんでしょう……?」


 優志ミオンは身を潜めながら猫月ゴマの様子を眺めていた。


 猫月ゴマはその場で軽くジャンプすると、彼の両足が水色に輝き出す。

 そして思い切り、桃形飛行物体を両足で真下に向け、蹴飛ばした!


「な、何をするんですの!?」


 サーシャの声が谷間に響いた。

 桃形飛行物体は、真っ暗闇の谷底に向かい吸い込まれるように落下していく——。


 やがて谷底から遠く、粉々に砕け散る音が響き渡った。

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