6.急行、合流


 癒月は、4人目となる美少女魔法戦士“ピア・チェーレ”——“ピア・ヒーリング”に変身を遂げた。


「【レスト・ハープ!】」


 ピア・ヒーリングの手元に、光が集まっていく。それは瞬く間に、ハープの形へと姿を変えた。


「“スターダスト・セレナーデ”!」


 ピア・ヒーリングは、ハープを奏で始めた。

 浮遊感のある、ゆったりとしたメロディが山頂の広場に響き渡る。

 その音楽は、優志ミオンにとっては心地の良い癒しの小夜曲セレナーデ。ふわりと包み込まれるような音色は、まるで子守唄のよう。


 だが魔物にとってその音色は、地獄の苦しみを与えるものだった。


「グゲエエエエ!?」


 モクモックンたちの、風船のような身体にある目と口が、ひどく歪む。

 優志ミオンは装備——プラチナシールド、シルバーメイル、プラチナヘッド——がしっかりと装着されているのを確かめると、“フレイムソード”をモクモックンの群れに向け翳した。


「今です……! “エクスプロージョン”!」


 爆炎魔法による紅蓮の炎が、山頂広場を明るく照らす。モクモックンの群れは炎に飲み込まれ、光となって消えていった。

 それでもモクモックンは数体生き残ったが、優志ミオンはフレイムソードを振りかざしてモクモックンたちを切り刻み、1体残らず始末した。


「見事ね」


 ピア・ヒーリングが満足げに頷きながら、優志ミオンの方へと歩み寄る。


「癒月さん、早くみんなと合流しなければいけません。急ぎましょう!」


 優志ミオンが言った直後だった。

 峡谷の方から、2〜3回、爆発音がこだまする——。


「まずいわね。早く向かわなきゃ」

「ミランダさん、急いでワープゲートを出してもらえませんか!?」


 優志ミオンは落ち着きなく足踏みをしながら、ミランダが出現するのを待つ。

 仲間たちが、危ない——。

 すぐにミランダは8の字を描きながら、光の中から現れる。


「えっと、どの辺に繋げばいいの!?」


 ピア・ヒーリングが、ずいと優志ミオンの前に出る。


「峡谷沿いのアタゴ山側よ。急いで!」


 ミランダが地面にワープゲートを出現させると同時に、優志ミオンたちはワープゲートに入るべく動いた。

 が、その時、優志ミオンの目に映ったのは——。


 アルス王子をさらい、瘴気を噴き出していた、あの巨大桃形飛行物体である。

 真っ赤な月に照らされながら、夜空をゆっくりと移動している。


「あれは……。あっ!」

「何よもう、急いでるのに!」


 桃形飛行物体は、空中で動きを止めた。

 直後、桃形飛行物体の中央部を縦に走る割れ目から、桃色の光の塊が勢いよく飛び出す。

 桃色の光の塊は、斜め下方向に向かい落ちていった。ちょうど、峡谷のあるところである。


「あれはもしや……アルスさん!? アルスさんが、谷間に落ちちゃいます!」


 優志ミオンとピア・ヒーリングは、急ぎワープゲートへと足を踏み入れた。


 ♢


 峡谷の、アタゴ山側に出た。


 谷間には、超巨大なバナナ形飛行物体“ジャイアントディック”が挟まっている。今もなお、脈打つように巨大化を続けていた。

 それに跨っている巨大さくらんぼも、不気味な赤い光を放っている。

 

 奇妙な光景に、圧倒される優志ミオン


「何ボーッとしてるのよ! 急ぎなさい!」

「はい……! あ、あれは!」

 

 優志ミオンは、ジャイアント・ディックの上にいるピア・ラヴィング——悠木ゆうき 愛音あいね、ピア・フレンズ——雪白ゆきしろ 友莉ゆうり、ピア・ブレイヴ——天ノ河あまのがわ 勇美いさみ、そして稲村リュカの姿を確認する。

 何者かと、交戦していた。


 空中を移動しつつ戦う何者か——。その者は、魔王軍幹部、サーシャ。


「みんな、まだ無事のようね……!」


 ピア・ヒーリングは、先にジャイアント・ディックの方へと駆けて行った。

 優志ミオンは追いかけつつ、ジャイアント・ディックの上部に目をやる。

 そこに、先ほど墜落していった桃色の光を発見。


「あ! あれはやはり……アルスさん!」


 桃色の光の中に、うっすらとアルス王子の姿を確認。

 眠っているのか、動く気配はない。


「ミオン。背中に乗って」

「は……はい。おんぶ……ですか」

「早くする!!」


 問答無用でピア・ヒーリングに背負われると、2人はレモン色の光に包まれた。

 レモン色の光は、彗星のごとくジャイアント・ディックの方へと飛翔する——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る