4.出撃せよ、勇者ミオン!


 風の精霊ミランダは、何者かによって魔力を奪われ、瀕死になってしまった。

 そこで策を思いついたのは、サラーである。


「私のー、魔力をあげるー。うまくいくといいんだけどー」


 サラーは地面に横たわるミランダに向け、“ウィザードスタッフ”をかざす。するとスタッフが虹色に輝き始めた。

 スタッフを介して、自らの魔力をミランダに流し込んでいるのである。


 だんだんとミランダの体に光が戻り、ひしゃげた羽が真っ直ぐになっていく。


「……助かったわ。ありがとう、サラーちゃん! これで、ワープゲートも出せるかも!」


 ミランダが光を撒き散らしながら、再び飛び立った。すっかり顔色も良くなっている。

 その様子を見た優志とラデクは、ホッと胸を撫で下ろした。


「そんなに魔力を分けちゃって……、大丈夫なの?」

「このぐらい余裕よー。私の魔力を舐めないでよー」


 サラーも、心配なさそうである。

 優志は申し訳ない気持ちを押し殺しつつ、ミランダに頼み込む。


「ミランダさん、辛いでしょうが今は一刻を争うのです……。ワープゲートを、あの山のてっぺんに繋げてもらえませんか?」

「任せて! 観客席あそこにある優志くんの装備も、ワープさせるわね!」


 死にそうだったのが嘘であるかのように、鮮やかに8の字を描きながら、ミランダは自身の体を7色に光らせた。


 直後、地面に虹色の円が描かれ、ワープゲートが出現する。

 同時に、観客席にあった優志の装備——フレイムソード、ブリザードソード、プラチナシールド、シルバーメイル、プラチナヘッドが、ワープゲートから飛び出す。


「ありがとうございます! リュカいなちゃん、悠木さん、雪白さん……今行きますよ! ……って、あれ? ラデクくんたちは来ないのですか?」


 優志はいそいそと装備を身につけ、虹色の光に足を踏み入れようとした。が、ラデクとサラーは、その場を動こうとしない。


「俺たちは、ここに残るよ。また魔物が出てきた時、住民を守らなきゃ」

「それにー、スピカちゃんとーソアラくんをー、見てなきゃいけないわー」


 ソアラは依然として意識不明で、タオルの上で寝かされている。スピカも、まだ体を小刻みに震わせていた。

 ゴマはスピカにくっつくように体を寄せながら、ソアラが目を覚ますのをじっと祈っている。


 真っ赤な欠けた月が、双子山方面から昇り始めていた。


「とにかくサーシャを倒し、あの赤い毒ガスを止めて、そして生命の水を取り戻せば……きっとソアラくんも助かります。必ず成し遂げてみせます! では、行ってまいります……!」


 優志はそう言い残し、ワープゲートに足を踏み入れた。


 ♢


 出た場所は、アタゴ山の山頂付近。

 周囲の木が枯れ始めている。


リュカいなちゃん、みんな、どこですか……! ぐ……また地震……!?」

 

 時折、地面が揺れる。

 手を汗まみれにしながら、優志は真っ暗な山道をひたすら進んだ。


 山頂の、開けた場所に出ようとした時だった。


「あなた、勇者ミオンね」


 現れたのは——ボロボロに破れた桃色のワンピースを着た金髪美少女。

 暗闇で突然声をかけられたため、優志の心臓が跳ね上がる。


「びっくりしました……! あなたは一体……?」

癒月ゆづき星愛ティア。ゴマは一緒じゃないの?」

「あの……リュカいなちゃんたち、知りませんか!? 40代ぐらいの大男と、中学生女子2人……」

「ゴマは? って聞いてるのよ。先に質問に答えなさい」


 圧のある癒月の声に、思わず口を閉じてしまう優志。

 思い切って「ゴマくんはソアラくんの傍にいさせてあげています」と言おうとした時。

 癒月の後ろから、2頭身のテディベアのような生き物がひょっこり顔を出した。


星愛ティア。早く谷間に向かうくま」


 テディベアはそう言うと、地面に虹色の光を放つ——が、その光が突如、優志のすぐ近くの空中に吸い寄せられる!


「あなたね……勝手にワープゲートを使っていたのは……」


 優志の隣に、ミランダが姿を現した。

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