57.ソアラからの手紙
「ボク、悔しくなると、熱くなりすぎて物事を冷静に見れなくなっちまうみてえだ……。そういう時に、さっきみてえにダメ出しされたらよぉ、何だろ、モヤモヤしちまうんだよ……」
「みんな、そうなんだぜ!」
「あ?」
あっさりとした態度の
「誰だって悔しい時はある! 納得いかなくてモヤモヤしちまう時はあるんだ!」
「テメエも……そうなのか」
「試合中に言ったじゃねぇーか! オレもアンタレス師匠に鍛えられてる時、己の力不足にずっとモヤモヤしてたんだ! 理由も分からねえままだったからな……!」
猫月は無言で脚を組み直しながら、フウと息を吐いて天井を見上げた。
「で、そういう時ぁ、モヤモヤの出口を必死に探すか、諦めて入口に戻っちまうかのどっちかなんだ! んで、大抵のやつは、入口に戻っちまう!」
「……入口に戻るだと? モヤモヤを抱えたまま、負けを認めちまうってことか? そんなのは絶対イヤだな、ボクは」
わざとらしく鼻を鳴らすと、蒼天は満足げに笑い声を上げた。
「あっはは! そうだ、お前はそういう奴だ! それが、お前の
「……そうかもしれねえな。だが、これからのボクは今までとは違う」
猫月の声色に、力強さが戻る。
「この先もモヤモヤすることがあるってんなら、壁をブチ破ってでも、出口をこしらえてやるんだ。出口が見つからねえんなら、自分で作りゃあいい」
「さすがだな、相棒! やっぱまだまだ、お前には敵わねえや! アハハ!」
敵わねえとか言いながら、やはり精神的には一歩先に行っている。その余裕っぷりが、なんとも憎い。
しかしコイツと話すことで、心のモヤモヤは綺麗さっぱり無くなった。話して良かった——口には出さないが、そう思う猫月だった。
そして猫月も、自然と笑顔になっていた。
代わって今度は蒼天が、椅子から身を乗り出し猫月に質問する。
「それより気になってたんだが、腰につけてるバックルと銀のメダル……ありゃ何なんだ!? いつの間にあんな変身能力を手に入れたんだよ!?」
「ああ。コイツは……」
猫月は左手に銀のメダルを持つと、腰に着けたバックルに当ててカチャカチャと掻き鳴らした。
メダルの表面には、猫の顔のマークが掘られている。
「いつのことだか忘れたが、寝て起きたらこのバックルとメダルが目の前に置いてあったんだ。最初はどう使うか分かんなかった。みんなが見てねえとこで色々やってたら、あんな感じでいきなり変身しちまったんだ」
「へぇー、いいなあお前だけ!」
「けどよ、さっきの試合で分かったが……コイツはいざという時だけ助けてくれるスペシャルアイテムみたいなもんだ。いつでも変身できるってわけじゃねえみてえだ」
「なるほどな! あまり当てにしちゃあダメってことなのか!」
バッグの中から取り出したのは——1通の手紙。丁寧に畳まれ、無地の手紙入れに入っている。
「
差し出した手紙を受け取った猫月は、首を傾げながら「何だこれは?」と言いつつ手紙入れを開けようとする。が——。
「あ! 待て!」
すぐに制止し、手紙を取り上げられた。
「あ?」
「い……今は読むな!」
「読むなって……何でだよ」
「コイツはオレからお前への、心からの
猫月の周りに、幾つものハテナマークが舞う。
「……こんなモンにわざわざ書かなくても、言いたいことあるんなら今言えばいいだろうが」
「かぁー! 分かってねえな! お前は……!」
「ああ、全然分からねえよ。何がやりてえんだお前は……。今読んじゃダメなんなら、いつ読めってんだ?」
「んー、そうだな……!」
蒼天は3秒ほど目線を上に向け考えたのち、白い歯を見せニカッと笑ってから、再び手紙を差し出してきた。
「オレが、死んだ時にでも読め!」
一瞬、猫月の表情が曇る。が、すぐに冗談っぽく笑い、差し出された手紙を乱暴に奪った。
「……ッハハ、馬鹿野郎が。縁起でもねえこと言うんじゃねえよ」
そう言って蒼天を軽く小突く猫月。
渡された手紙は、そっとポケットにしまった。
蒼天は、叩かれた頭を右手で押さえながら笑い声混じりに「じゃあそろそろ行くか!
キィ、と扉が開けられた。
「……あ! ソアラくん! お疲れ様でした。無事で良かったです……! ゴマくんはまだ部屋の中ですか……?」
気付いた優志の声が廊下に響く。そしてラデク、サラー、
遅れて扉から出た猫月は、迎えにきた優志たちの元へと駆けていく無邪気な準チャンピオンの後ろ姿を、ジッと見ていた。
チャンピオンは、そっと呟く。
「ありがとよ……
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