55.まだまだ、強くなれるさ


「じゃあ見せてやる……! ボクが潰してきた奴らから、もらった技だ。覚悟しやがれ、ソアラ……!」


 ゴマは天下一武術大会が始まって以来、倒した敵に自身の魔力を当てることで、その敵の得意技を吸収できるようになったのだ。


 ソアラから「本気を見せてみろ」と言われ、闘志に火がついたゴマ。


 しぶとい野郎だ。なら、出せるカードは全部出してやるんだ。いくぜ——。


 ゴマの両脚が、オレンジ色に包まれる——!


「ゴーレム野郎の技だ! “ジャイアント・インパクト”」


 ゴマは両脚を太陽の如く輝かせながら、その場でジャンプ。着地した瞬間、ソアラの周囲の地面に亀裂が入る!


 だがソアラは、ステップを踏みながら易々とそれを避けた。


「サミュエルの野郎の技だ! “インフェルノ・フィスト”」


 両拳に炎を纏わせ、ソアラの元へ突撃するゴマ。

 しかしそれ以上の速さで横に跳んだソアラは、あっさりとかわす。


「ピア・ブレイヴとやらの技! “六芒星・昇天撃ヘキサグラムライジング”!」


 ゴマの周囲に六芒星のマークヘキサグラムが出現、輝きを放つ。それらがゴマに集まっていき、全身が白く光り始めた。

 やがてゴマは、光り輝く球体となる。そしてソアラに向け、猛スピードで突っ込んでいく——。

 その様は、まるで彗星であった。


「ぶああッ!」


 さすがのソアラも、防ぐ術なく直撃を喰らう。

 手応えあり——。

 そう感じたゴマだった。が——。


 ソアラは、立っていた。


「……ハァ、ハァ……! まだそんなもんじゃないだろ……!」


 吹き飛ばされたものの、数秒待たず態勢を立て直したのだ。

 圧倒的攻撃力を持つゴマの攻撃を正面から受けたにも拘らず、である。


「何でだ。何で通じねえんだ……!!」


 思い知らされる

 攻撃を放てば放つほどに、ゴマの心の方がダメージを負っていく。


 納得できねえ。何でなんだ。

 。今までどんな敵も軽々と潰してきたこのボクが、

 何でこんなヘッポコ野郎に、苦戦してるんだ——。


 ムキになり、持ち技を次々と放つゴマ。グラウンドは穴だらけになり、所々炎が上がっていた。

 だがソアラは呼吸を乱すことなく、ゴマの攻撃を易々とかわし続ける。


 息が上がったゴマは、ついに攻撃の手を止めた。


 ソアラはステップを踏みつつ叫ぶ。


「なぜ本気を出さねえ!」


 本気を出してねえだと? バカ野郎、ボクは思いっ切り全力出してるだろうが!


 言おうとしても、声にならないゴマ。


「本気を出さねえのは、自分の実力を知るのが怖えからだろう!?」


 自分の実力を知るのが怖い——その言葉が、ゴマの心に深く突き刺さる。

 ようやく息が整ってきたゴマは、喉から声を絞り出した。


「ゲホッ……! ほ……ほざけ!! だったら……見せてやるぜ、本気中の本気って奴を! 変身だ…… ゴマWWWトリプルダブリューCT50シーティーファイブオー3194スリーワンナインフォー!」


 ゴマは1枚の銀色に輝くメダルを取り出す。そして、ベルトの前部にある円形のバックルにメダルを装着。


 だが、何も起こらない。


「何でだ……クソッタレ……! 変身! 変身!! ……何でだよ!!」


 バックルに何度もメダルを入れ直すが、うんともすんとも言わなかった。


「クソッタレ……じゃあボクの本気の本気の本気だあああ!! うああああ……!!!!」


 両手を握りしめ、天に向かって叫ぶゴマ。

 握りしめた両手からは、血が流れていた。

 彼を包む、燃えるような紫色のオーラが大地を抉る。それにより抉れた地面が、ゴマ自身をも傷つけていく。全身から血が噴き出す——。

 血まみれになり、ふらついてすらいるゴマは、すでに暴走状態にある魔力をなおも溜め続けようとしていた。


 見かねたソアラは、危険を顧みずゴマの元へと駆け寄り、拳を上げる!


「頭を冷やせ、バカ野郎!!」


 ゴマの頬に、鈍い痛みが走った——。


 大きな夕陽に、2つの影が映る。

 片や崩れ落ちる1人の勇者。片や拳を下ろす1人の武闘家——。


 観客席がどよめいたが、すぐに静まり返った。


 倒れ、血を流しながら呆気に取られるゴマ——。包んでいた紫色のオーラが、段々と小さくなる。




 ソアラはしゃがみ込み、語りかけた。


優志まさしを見ろ……! アイツはめちゃくちゃ強えってわけじゃねえが、自分の実力を素直に認め、強くなろうとしてる!」


 ゴマは地面に身体を横たえたまま、右手で殴られた頬を押さえている。


「今の自分を認めて初めて、成長するってもんだ! うちは、なんてなれねえ!」

「ボクが……弱いってのか。舐めやがって……」

「お前はよ!」


 張り詰めていたゴマの表情が、緩む。


「お前は強いが……まだまだもっと、強くなれるはずだ! 伸び代なんていくらでもあるはずだ! お前もオレもな!」


 ゴマの目が、だんだんと潤んでくる。


「なあ、ワクワクしてこねえか!? 伸び代があるってことは、まだまだ知らねえ自分がいるってことだ! 知らねえ自分と、出会えるってことなんだよ!!」


 ゴマは手をつき、そっと体を起こした。そしてゆっくり、ゆっくりと立ち上がる。

 その顔には、笑みさえ浮かんでいた。

 先ほどまでの凶悪な笑みではない。

 長い暗闇のトンネルを抜けた時のような清々しささえ感じさせる、純粋な瞳の輝きを伴ったものだった。


「そうか……ボクはまだまだ強くなれる」


 途端、ゴマの手の中にあったメダルが輝きを放つ。

 立ち上がったゴマは迷うことなく、そのメダルを腰の前部にある円形のバックルに装着した。


「変身」


 青白い光が集まり、メカニックな兜、アーマー、ウィング、シールド、ブーツに変形し、ゴマに装着されていく——。

 

『Let's Go! ゴマWWWトリプルダブリューCT50シーティーファイブオー3194スリーワンナインフォー


 人工的な声が響いた時、そこには猫耳のついた人造人間アンドロイドのように変化したゴマの姿があった。


 本気のゴマ——覚醒。


「ハハッ! 目が覚めたか、相棒!」


 ゴマWWWトリプルダブリューは兜の奥で、きっと子供が見せるような喜びの表情になっていたことだろう。


「ソアラ、お前の言う通りだ。世界って、広いんだな……ハハハ。まだまだボクは、強くなれる余地がある。嬉しいことだぜ!」

「そうだ、それでこそ……!」


 ソアラは口元についた血を拭うと、ニッコリと笑ってみせた。


「オレの、相棒だ!」


 伝わった——!

 安堵する暇もなく、ゴマWWWトリプルダブリューは青白いオーラを纏い、力を溜め始める。


「負けた気はしねえぞ。お返しだ。ボクの力……だが精一杯の力ァァ!! 見せてやるぜッッ!!」

「オレだって! 簡単には負けてやらねえからなァァ!!」



 観客席に、過去一番の歓声、拍手が湧き上がる。

 ゴマは気づいていなかった。この時、観客席の声援に「ゴマ頑張れー!」「ゴーマ! ゴーマ!」といった声が増えていっていることを——。



「ウォアアアアーー!!」

「はぁぁああああーーーー!!」


 ソアラはジャブ、ストレート、ローキック、ハイキック、回し蹴り、踵落とし、跳び膝蹴り、そして“ダブル500万馬力・猫パンチ”——持ち技全てを、本気でゴマにぶつけた。

 だがゴマWWWトリプルダブリューは、全ての攻撃を跳ね返す。


 自身の全力攻撃が全く効かなかったにもかかわらず、ソアラは楽しそうに笑っていた。

 ゴマが優勢である。だがゴマは、気を抜かなかった。慢心しなかった。彼も、全力で反撃に転ずる。


 ゴマWWWトリプルダブリューは両拳に紫色に輝くエネルギーを溜め、必殺“ギガ・ダークフィスト”を放つ。パワーアップしている上に、ゴマの本気である。喰らえば即死してもおかしくない。

 それをソアラは歯を食いしばりつつギリギリのところでかわし、隙をついて腹部を攻撃しようと右脚を水色に光らせる。

 が——本気のゴマに隙などは無い。

 ゴマWWWトリプルダブリューは、ソアラの渾身のキックをシールドに当て、阻止した——。


 ♢


 優志ミオンたちは、熱い闘志を燃え上がらせぶつけ合う2人に、すっかり釘付けだ。


「……楽しそうですね、2人とも」


 お互いを認め高め合える、素晴らしい仲間だ。彼らと出会えて良かった——。

 優志も、戦う2人と同じく、やわらかな笑みを浮かべていたのだった。


「ほんまに。2人ともええ顔してるわ。ゴマの顔は兜であんま見えへんけど……」

「ゴマ、見直したよ……。2人とも応援したくなっちゃった! 頑張れー!!」

「2人ともー、かっこいいわよー。ファイトー!」


 ♢


 ソアラに、やや疲れが見え始めた。

 ここぞとばかりにゴマWWWトリプルダブリューは、右手でソアラの左手に掴みかかる。ソアラも負けじと掴み返した。

 同じように、反対側の手も。

 互いの掌を合わせ、押し合う形になった。

 

「「勝負だァ!!」」


 力の差は、圧倒的だった。

 僅か、10数秒間のこと。

 だがその時間は2人にとって、長い長い、夢のような時間だった——。

 


 変身、転身の解けた猫月ゴマがハッと気付いた時。

 沈む夕陽に涙を光らせながら白線の外に立つ、ライバルの姿——転身の解けた蒼天ソアラの姿が、ゴマの目に入る。


「勝者!! 猫月ねこつきごまぁーーッ!!」


 大歓声の中、2人は地面に倒れた。


————


※ お読みいただき、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、

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【次週予告】


☆ 「ボク、悔しくなると、熱くなりすぎて物事を冷静に見れなくなっちまうみてえだ……。そういう時に、さっきみてえにダメ出しされたらよぉ、何だろ、モヤモヤしちまうんだよ……」

 悩める猫月ゴマに——。


☆ 「コイツは、オレが死んだ時にでも読め!」

 蒼天ソアラが渡したものとは——。


☆「この大会で、私はとても勇気をもらいました。私も、自分にしか出来ないやり方で、強くなります。そして必ず、魔王を倒してみせます……!」

 優志勇者ミオン、決意新たに次なるステージへ!


56.チャンピオンの悩み

57.手紙

58.勇者ミオンの決意


 STAGE4、完結です。

 どうぞ、お楽しみに!

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