54.相棒として


「ソアラ! ソアラ! ソアラ——!」


 観客席から湧き上がる、“ソアラコール”——。


 ソアラは、ふらつきながらも再び地に足を踏みしめ、立ち上がった。

 途端、天下一武術大会が始まってから最高潮ともいえるほどの大歓声が、競技場を包む。


「な……何でテメエばっかり応援されるんだ……」


 ゴマはむくれた顔で観客席を見回してから、大声を上げた。


「おいコラ! ボクを応援しやがれ!! ボクが優勝するんだ!!」


 途端、歓声のテンションが下がっていく。

 一部の観客席から、ブーイングの声すら上がっていた。


 代わって、ソアラも同じように、観客席に向けて問う。


「みんな! オレのこと、応援してくれるよな!?」


 すると、拍手と大歓声が復活。またも、“ソアラコール”が起きた。

 思わず口角を上げるソアラ。


「何だよ……何だ、この差はよ……」

「わかったか!? テメエの直さなきゃいけねえところが……!」

「なんだと? ソアラ……」


 ゴマはキッと、ソアラを睨みつける。


「このボクの何がダメだってんだ。納得できねえ! 言ってみろ!!」

「分かんねえか……! なら……!」


 ソアラは右拳を水色に輝かせながら、駆け出した。


「拳で教えてやるぜッ!! “500万馬力・猫パーンチ”ッ!!」

「チッ。無駄だ」


 またしてもゴマは、ソアラの渾身の一撃を軽々と止める。片手で。

 が——。

 歓声はすぐに、ブーイングへと変わった。


「何だよこれ……面白くねえ……。何でボクは応援されねえんだ……」


 狙い通り——そう言いたげに、ソアラはニヤリと笑う。

 茶色い髪が、風に靡いていた。

 

「これが、才能にアグラをかいて努力することを辞めちまった奴の末路だ!」

「バカな……」


 後退りをしながら、チラ、と観客席を見るゴマ。

 優志ミオンの姿が、目に映る。

 彼の口の動きも明らかに「ソアラくん」であった——。


 再び巻き起こる、“ソアラコール”。大勢の声援が、ソアラに力を与える。

 ソアラの右拳が水色に、左拳がオレンジ色に輝き始めた。


「いくぜぇ、ゴマ!! “ダブル・500万馬力・猫パァーンチ”!!」


 かつて魔王軍幹部サクビーを葬った、ソアラ最強の連撃——。

 右ストレートパンチをゴマの腹部めがけて放つ! 同時に、左ストレートパンチを放つべく構える!

 だが——。

 

「つまんねえ!!」

「ぐあっ!」


 渾身の右パンチが当たる直前。

 先程と同じように、ゴマはソアラの腹部を蹴り上げた。両拳を包んでいた光が消え、後方に吹き飛ぶソアラ。

 またしても巻き起こるブーイング——。

 

「何だよ……このモヤモヤはよ……。納得出来ねえ! 何でテメエばっか応援されるんだ!!」


 ゴマは両手で耳を塞ぎ、地面をダンと蹴った。


 対して、口から血を流しながらも、立ち上がるソアラ。

 いつになく真剣な眼差しで、地団駄を踏むゴマを見つめていた。


「……前までのオレも、モヤモヤしてたんだ! そう、今のお前のように!」


————————


「悔しいよぉーーーー‼︎ うあああああああーーーー……!」

「悔しいじゃろう、ソアラ。お主の、自信のある一撃が通じなかったことが。お主の見てきた世界が、かわずの住む井の中に過ぎなかったことが」


————————


 橙に染まる夕焼け空を見上げ、過去を思い出す。流れる血を拭い、しっかりと両足で地を踏みしめる。

 ゴマは、一歩後ずさった。


「何が、言いてえんだ……」

「師匠に鍛えられた時、オレはすごく悔しかった! 悔しい理由が分からずモヤモヤした! 気持ち、分かるぜ……!」

「んなこと知るかよ。テメエなんざにボクの気持ちが分かってたまるか……」


 一気に勝負を決めるつもりなのであろう。ゴマは全身を紫色に光らせ一歩退がると、真っ直ぐに駆け出した。


「ソアラ、テメエの敗けだ!!」


 が、ソアラは拳一つで、ゴマの突撃を止める。

 衝撃で火花が散り、2人の顔を照らした。


「バカな……! 何で……」

「聞け、相棒! オレが修行を終えた後、マーズ先輩がライバルのレアさんと闘ってるのを見たんだ!」


 顔を歪めながらなおも押し続けてくるゴマを両拳で押さえながら、話を続けるソアラ。


 彼が見た、星猫戦隊コスモレンジャーのマーズと、レアとの決闘。

 マーズは見事、レアを打ち負かしたのだが——。


「マーズ先輩も、きっと悔しい思いしながら、強くなろうと努力したんだと思うぜ! だからレアさんに勝てたんだ!」

「だからどうした……」


 ゴマは息を切らしながら体を離し、後ろに退がる。


「レアさんも凄く強えけど……自分の強さに甘えてた、って言ってたんだ!」


————————


「私の敗けだ」

「潔いな、レア」

「己のやり方を過信し、そこに居付いたことが敗因だ」


 ————————


「……どんなに強くなっても、やっぱり天狗になっちゃいけねえ……オレはそう思ったんだ!」


 レアが己の才能に甘んじている間、マーズはずっと努力を続けていたのだ。

 そしてついに、レアは敗れた——。


「相棒として、友として! ゴマ、お前には……ほしくないんだよ!」

「1人でゴチャゴチャうるせえな。知った口きいてんじゃねえよ……」


 この思い、ゴマ相棒に届けてやる——!

 自然と、伝えるべき言葉が口をついて出る。


「天狗にならねえのも大事だ! 努力し続けるのも大事だ! だが、オレはそれ以上に……! 格闘技が大好きなんだよ!!」


 全身が、水色に輝く炎のようなオーラに包み込まれていく。


「オレ、絶対負けねえから! だからお前も本気を出せ! ゴマ!!」

「だったら見せてやる……」


 ゴマの両脚が、オレンジ色の輝きを帯び始めた。

 伝わったのか……?

 期待と疑問を同時に抱きながら、ソアラは構える。


「ボクが潰してきた奴らから、もらった技だ」

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